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【マレーバクとは】特徴や生息地・絶滅危惧種保護の取り組みを紹介

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「マレーバクはバクの仲間?」

「バクはどんな動物?夢を食べる?」

「マレーバクは絶滅危惧種なの?」

バクといえば「夢を食べる」という話を連想するかもしれませんが、夢を食べるバクは中国の想像上の動物です。

タイの山岳民族には、バクは神が余りものを繋ぎ合わせて創造した動物だという言い伝えもあります。

この記事で取り上げるマレーバクは、その名の通りマレー半島とスマトラ島に生息するバクの一種です。

IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:危機)に記載されており、野生では非常に高い絶滅の危機に直面しています。

最後まで読んでいただくと、マレーバクの特徴・生態・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。

「マレーバク」とは

マレーバクは奇蹄目バク科に分類され、現存する5種のバクのうち唯一アジアに生息する種です。

バクの仲間は有蹄類の中ではもっとも原始的な動物と考えられ、始新世から1,200万年の間ほとんど姿を変えることなく存続してきたと考えられています。

かつてバクの仲間は、ヨーロッパ・アジア・アメリカ大陸全土に生息していましたが、今では東南アジア・中米・南米に5種が残るのみとなりました。

ここでは、他のバクとは異なる特徴をもつマレーバクについて解説していきます。

「マレーバク」の特徴

マレーバクは体長220〜250cm・体重250〜300kgで、現存するバクの仲間では最も体が大きく、白黒に分けられたツートンカラーの体が特徴的です。

この白黒模様は、夜になると黒い部分が暗闇に紛れて白い部分だけが浮かび上がるため、輪郭をぼやかしカモフラージュする効果があると考えられています。

前肢に4本、後肢に3本の指があるのは、ほかのバクと同様です。

ゾウと同じように上唇が一体化して伸びた鼻をもち、器用に動かして餌を採るほか水中ではシュノーケルのようにも使います。

視力は弱く、行動する時に頼っているのが優れた嗅覚と聴覚です。

普段の動きはゆったりとしておとなしい性質ですが、体が大きく犬歯も発達しているので怒らせると危険な動物でもあります。

「マレーバク」の暮らし

マレーバクは、河川や湖沼など水辺近くの多雨林に生息し、群れをつくることはなく普段は単独で生活しています。

マレーバクは夜行性で、行動範囲はメスの方が広いといわれており、行動圏はおよそ10〜25k㎡です。

マレーバクが餌とするのは、木の葉や小枝・草・果物・水草などの植物で森林内の200種類以上の植物を食べているというデータもあります。

ほかのバクと同様、マレーバクは水浴びすることを好み泳ぎも得意です。ヒョウやトラなどの肉食獣に襲われると水の中に逃げ込んで身を守りますが、大きくて重い体にもかかわらず素早く走ることもできます。

首周りの皮膚は2.5cm程もあり牙をもつ動物に対しての防御になりますが、首以外を噛まれた時などは、相手を樹木に叩きつけるようなこともするそうです。

マレーバクの生息には、餌となる植物が豊富なだけでなく、水辺環境を備えた十分に広い森林が必要だといえます。

「マレーバク」の繁殖

マレーバクは一夫一婦で、繁殖期は4〜6月頃です。メスの妊娠期間は390〜410日で、4〜5月に出産を迎え1度に1子を産みます。

生まれたばかりの子どもの体重は約6.5kgで、イノシシの子ども(瓜坊)のようにしま模様がありますが、これは森の茂みや木漏れ日の中で敵から身を隠すのに効果的です。

1週間に5kg程のペースで急速に成長し、半年ほどでしま模様はなくなり親と同じ白黒の体になります。

授乳期間は6〜8ヶ月ほどで、親が次の子を出産するまでは一緒に行動するのが普通です。
オスメスともに3年程で性成熟し、飼育下での寿命は約25年といわれていますが、35年を超えたものも知られています。

マレーバクは環境さえ整えば繁殖は難しくないことが分かっていますが、安定的に繁殖を続けるためにはパートナーに出会うための十分な広さの生息地も必要です。

「マレーバク」の分布・生息地

マレーバクの分布は、ミャンマー南部からマレー半島及びスマトラ島で、生息地にかかるのはミャンマー・タイ・マレーシア・インドネシアの4か国です。

マレーバクは山地の雲霧林から分断化された低地の森林まで広範囲に生息し、湖・河川の近くや湿地帯などの水辺を利用します。

原生林にも二次林にも生息しますが、低地の常緑樹林は特に重要な生息地です。マレーバクは森林周辺のアブラヤシなどを栽培する農地・農道・林業地でも見られるとの報告があります。

調査結果を基にした推定個体数は、マレーシアで1,100〜1,500頭、タイの保護区内で538〜720頭とされています。しかし、ミャンマーとインドネシアでは推定値を出せる程度の情報が得られていません。

現在のマレーバクの生息数は多くても2千頭あまりというところが妥当でしょう。

マレーバクはかつてベトナム・カンボジア・ラオスなどにも分布していましたが、近年の森林開発などによって生息地は減少し生息数の減少が危惧されています。

「マレーバク」の保護の取り組み

マレーバクは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:危機)とされているほか、希少種保護の国際的な取り決めである「ワシントン条約」(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で付属書Iに掲載されています。

よって、商業目的のための国際取引は全面的に禁止、学術目的の取引には輸出入国双方の政府が発行する許可証が必要です。

2022年には、マレーバクの保護に関する地域ワークショップが開催され、関係各国の現状と課題、今後の展望などが報告書にまとめられています。マレーバクの保護の取り組みについては報告書にも記載されていますが、ここでは概要をご紹介します。

マレーバクの人為的な移動

保護の取り組みの一つが、マレーバクを生息適地へと人為的に引っ越しさせる試みです。

マレーシアでは、市民からバクに関する苦情が寄せられると、状況をモニタリングした後にバクを森林地帯に戻す措置が講じられています。しかし、分断化の進んだ面積の小さい森林に戻された場合、再び人の生活圏に出てきてしまうことが起こります。

分断された森林が将来開発により消滅してしまう可能性も踏まえ、バクを捕獲して十分に広い生息地へと移す目的で、2014年以降33頭のバクが移送されました。

移送されたバクが無事に新しい土地に定着できるとは限らず、負傷した場合には国立野生生物保護センターにて治療とリハビリを受けた後にリリースされます。

一部は保護繁殖用に飼育されますが、野生からの保護個体と飼育下で繁殖した個体合わせて62個体が、2022年までに保護地区においてリリースされました。

このように、マレーバクの人為的な移動はある程度の成果をあげていますが、移送先に十分な生息環境が保たれていることが求められます。

生息環境の改善

マレーシアのスンガイドゥスン野生生物保護区では、マレーバクの食用となる植物を植林しています。マレーバクは200種類以上の植物を餌としており、マレーバクの餌となる植物の苗木を栽培することも含めた長期計画です。

スンガイドゥスン野生生物保護区はマレーバクの生息地ですが、餌資源を増やすことで更に多くのバクが生息できるようになります。将来的には、他地域からのマレーバクを受け入れても、森林の外へバクが餌を求めて出て行くことなく生息できるような環境まで改善していくことが狙いです。

マレーシア政府は国土利用マスタープランの中で、野生生物の生息地のつながりを維持することを目的として、森林どうしを回廊で結びつける取り組みも進めています。

分断された森林が再びつながることは、マレーバクにとっても有益です。マレーバクが安心して移動できる森林が広がり、餌資源や繁殖相手を見つける機会が増え、結果的に生息環境の改善にもつながります。

交通事故対策

マレーシアでは、マレーバクの交通事故を防ぐために道路横断橋・フェンス・道路標識の設置が進んでいます。

道路横断橋は、道路を高架で横断する形で設置されたものです。マレーバクの他にマレーグマ・アジアゾウ・マレートラなどの大型哺乳類も利用しているという報告があり、多様な野生動物の交通事故を防ぐ結果となっています。

また、マレーバクの事故発生率が高い道路では動物の侵入を防ぐフェンスが道路沿いに設置されました。

さらに、マレーバクが頻繁に出没すると特定されたスポットには、ガソリン企業と国が協力して「バク横断注意」標識を設置しています。2022年までに設置されたのは310基です。

以上のような対策がマレーバクの交通事故防止に効果的にはたらくよう、今後もモニタリングとフィードバックを継続していくことが望まれます。

環境教育

マレーシアの生物多様性研究所では展示会や公開講座などを開催し、マレーバクの現状と保全活動などについての環境教育を実施しています。環境教育プログラムが対象としているのは、一般市民・学生・地域社会の住民などです。

マレーバクの保護について地域住民の理解を得ていくためには、絶滅危惧種に関する正しい情報の提供が欠かせません。

マレーバクと人との軋轢が起きた時にどのような対処が選ばれるかは、地域住民がマレーバクをどう捉えているかに左右されるからです。

継続的な環境教育により、密猟・違法取引の根絶とマレーバクの保護を含めた生物多様性保全が実現することが期待されます。

私たちにできること

マレーバクは東南アジアの森林に生息する野生動物ですが、東南アジアの森林と私たちの生活は身近な食品でつながっています。その食品とは、ポテトチップスやマーガリンなど多くの加工品に使われているパーム油です。

パーム油はアブラヤシの実から抽出されますが、大規模にアブラヤシを栽培するために東南アジアの森林が切り開かれてきました。

日本人が利用する食品を生産するために、東南アジアの地域特有の自然が破壊され生物多様性が減少しているとしたら、私たちも無関係とは言い切れません。

毎日利用する食材がどこでどのように生産されているのか、加工品であれば原材料はどこの国から輸入しているのか、関心をもち知った上で納得のいく選択をするのが理想的です。

買い物をする際、なるべく環境への負荷が少ないものを選ぶよう多くの人が意識できれば、東南アジアの森林への負荷を軽減できるかもしれません。

国内では、動物園に行って間近でマレーバクを観察することが可能です。今までマレーバクをツートンカラーの可愛い生きものとして捉えていた人も、絶滅危惧種だという現状を知れば見方が変わるのではないでしょうか。

マレーバクを飼育している動物園は次のとおりですが、最新情報はそれぞれの公式サイトでご確認ください。

また、マレーバクの保護活動をしている団体に寄付をしたり、現地ツアーや保護活動に参加したりすることもマレーバクの保護につながります。

マレーバクの生態や生息地について関心をもち情報を得ることが、マレーバクを絶滅の危機から救う第一歩です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。