絶滅危惧種 PR

【カブトガニ】特徴や生息地・保護の取り組みを紹介

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

「カブトガニってどんな生きもの?」

「カブトガニってどこにいるの?」

カブトガニは、兜のような硬い甲羅をもつ生きもので、大昔からほとんど形を変えていないことから「生きた化石」ともいわれています。

カブトガニは西日本の限られた干潟に生息し、環境省レッドリストでは絶滅危惧I類(絶滅の危機に瀕している種)として掲載されている希少種です。

この記事では、カブトガニの特徴・生態・分布域・生息地・保護活動について、広くご紹介していきますので、ぜひご覧ください。

「カブトガニ」とは

カブトガニは、節足動物門節口綱カブトガニ目カブトガニ科に属しています。

節足動物には昆虫類・クモ類・ムカデなどの多足類・カニなどの甲殻類が含まれますが、カブトガニはカニよりもクモに近いとされる生きものです。

カブトガニは、今から5億年以上も前に大繁栄した三葉虫に近い現存の動物で、2億年前から生息していると考えられており、「生きた化石」とも呼ばれています。

恐竜の絶滅など地球史上の大異変を乗り越え、現在まで子孫をつなぎ続けてきたカブトガニとは、どんな特徴をもっているのでしょうか。

カブトガニの特徴

カブトガニはメスの方が大きく、全長はオス約45〜70cm・メス約55〜85cm、体重はオス約1.5㎏・メス約3.0㎏です。

カブトガニの体は、前体・後体・尾剣の3つに分かれており、前体は半月型で両端が後方にむかって尖る硬い甲羅で覆われています。この甲羅はキチン質で成長とともに硬くなり、外敵から身を守るのに有効です。

前体部の背面はなめらかなドーム状で、1対の複眼と1対の単眼があります。口は腹面の中央にあり、口の前にも腹眼という特殊な眼をもっているのが特徴的です。

口の左右に6対の脚がありますが、1対目の脚は短い鋏状で餌を口へ運ぶ時に使います。歩くときや土を掘るのに使うのが2対目から6対目までの脚です。6対目はへら状の構造をもち、泥の上で体を支えながら前進するのに役立ちます。

後体部は台形に近い形で両側に刺が6対あり、この刺の特徴によりカブトガニの種を判別することが可能です。

尾剣は付け根から徐々に細くなり、先端は鋭くとがっています。

このようにカブトガニは、脊椎動物・昆虫・甲殻類などの見慣れた生物とはかけ離れた姿をしており、古代生物のなごりを感じさせる特殊な生きものなのです。

カブトガニのくらし

カブトガニは、水温が18℃以上になると活動をはじめ、1年のうち4分の3の期間は沖合の深いところに潜って休眠しています。干潟で姿が見られるのは、地域差はありますが6〜9月の繁殖シーズンです。

また、1日のうち9割の時間は休息していて、夜間の満潮時に最も活発になり餌を探します。カブトガニの餌は、ゴカイ・ウニ・二枚貝・海藻などです。

カブトガニは小さいうちは甲殻類などの餌になり、成長するとカモメ・サギ・シギ・チドリなどの鳥類が天敵となります。

カブトガニが大昔から生き残ってきた鍵は、効率よく休眠・休息してエネルギー消費をおさえることができる生態にあるのかもしれません。

いずれにせよカブトガニが存続するには、餌となる生物が豊富で身を隠すための泥底がある良質な干潟の環境が必要不可欠です。

カブトガニの一生

カブトガニの一生は、干潟の環境と深く結びついています。

産卵は7〜8月の大潮の満潮時が中心で、オスとメスがぴったりとくっついて一体となり、水深15〜20cmのところに穴を掘ってメスが卵を産みます。

満潮時に海岸に近い場所を選んで砂の中に産卵することがポイントで、卵が波や外敵から守られるだけでなく、潮が引いた時には効率よく太陽に温められて孵化が促されるので合理的です。

メスは直径約3㎜の卵を1か所に300〜600個ほど産み、10〜20cm前進して再び穴を掘って産卵するというのを数回〜10回ほど繰り返します。

産卵から6週間ほど経つと三葉虫によく似た第1齢幼生が孵化し、約1年後に脱皮して第2齢幼生になるまで過ごすのが干潟の泥の中です。第2齢幼生になるまでの約1年間、幼生の栄養分は卵黄だけで何も食べません。

カブトガニの幼生は1年に1回のペースで脱皮し、脱皮ごとに前の体より1.3〜1.4倍大きくなります。カブトガニの体はとても複雑な構造で脱皮時の死亡率が高いため、脱皮するのは命がけです。

カブトガニが干潟にいるのは9齢までで、その後は沖の方に移動します。15歳くらいで成体となりますが、それまでオスメスの区別がつきません。寿命は推定で25年ほどといわれています。

カブトガニの繁殖には潜りやすく空気を含んだ柔らかい砂が必要で、脱皮の際にも波が穏やかで水のきれいな干潟の環境が重要なのです。

「カブトガニ」の分布・生息地

現在世界には、北アメリカと東〜東南アジアに4種のカブトガニが分布しています。

日本のカブトガニは4種のなかで最も大きく、日本のほかに台湾・中国大陸東岸・フィリピン・ボルネオ島・ジャワ島・スマトラ島にも生息している種です。

国内では、瀬戸内海一帯の兵庫県・広島県・山口県・徳島県・香川県・愛媛県と北九州の佐賀県・長崎県・福岡県・大分県に分布しています。

現在では岡山県・山口県・佐賀県・長崎県では比較的多く確認されていますが、他の場所では徐々に姿を消し、減少傾向です。

国内の生息数としてまとめられているデータはなく、行政などによる公的調査や市民団体の調査が各地で実施されています。

ある程度まとまった経年変化を把握できるのが、日本カブトガニを守る会の産卵つがい数の調査結果です。

この調査は会員により実施され、対象地域は伊万里湾(佐賀県)、曽根干潟・加布里湾・津屋崎・今津湾(福岡県)、守江湾(大分県)、玉喜海岸(山口県)に限られています。

調査対象地域全体で確認されたペアの合計は、2022年に2,645つがいとのことです。調査開始は2000年で、2015年に最大値2,936を記録していますが、年や地域によって大きく変動しています。

カブトガニが子孫を残すには、産卵のための砂浜と幼生が生育するための干潟が欠かせません。カブトガニはどんな海でも生きていけるわけではなく、干潟と砂浜が広がる波の穏やかな浅海が必要なのです。

「カブトガニ」が絶滅危惧種となった理由

生物の大量絶滅のような地球史上の危機を乗り越えて、太古の昔から子孫をつないできたにも関わらず、現在カブトガニは絶滅の危機にあります。

かつては瀬戸内海と北九州に数多く見られましたが、生息に適した環境は激減し、現在は限られた地域にしか残っていません。

カブトガニが生息数を減らした理由は大きく3つ考えられています。1つ目は干潟の減少、 2つ目は干潟の環境変化、3つ目は海水の汚染です。

カブトガニの生息には干潟が不可欠ですが、産卵に適した砂地や幼生が潜るのに適した泥などがそろった環境でなければ繁殖できません。

カブトガニの生息適地が急激に減っている理由は、海岸の埋め立てや海水の汚染など人間の活動に起因しています。

干潟の減少

全国の干潟面積は、1945年には約8万haだったのが1978年までに約5万haまで減少し、1996年には49,380haとなっています。

高度成長期に海岸線が埋め立てられ工業地帯に改変され、食糧増産のための干拓事業で干潟が農地などへ変えられた結果でしょう。

瀬戸内海の干潟に限ると、1949年の1万5千haから1995年にかけて面積は徐々に減少し2006年時点では約1万haです。

近年でも、空港建設・護岸工事・内湾の開発事業などの影響は続いており、生息地や生息数の減少が心配されます。

現在残された数少ないカブトガニの生息地を、確実に保全していくことが大変重要です。

干潟環境の変化

カブトガニの生息に適した干潟は、カブトガニが潜りやすい泥と産卵のために空気が含まれる砂地の両方を有している環境です。

国内有数の繁殖地である笠岡湾では、近年、干潟の底質に砂が多く混入していて固く締まった状態になっていることが懸念されています。

干潟環境の変化の原因として考えられるのは、周辺の開発によって海水の流れが変わった上に大型船の往来により、細かい泥が沖へと流出したことです。

直接的な干潟の改変だけでなく、離れた場所の開発が海流を変えるなどして間接的に生息地の環境を変えてしまうリスクも見過ごせません。

環境汚染

カブトガニは干潟のゴカイや貝を泥と一緒に食べるため、環境汚染の影響を受けやすいといえます。

海水の汚染物質がカブトガニの卵にどのような影響があるか調べた結果では、アンモニアと農薬を加えた海水では奇形が生じました。

カブトガニ以外の生物でも、汚染物質の指標であるアンモニア・リン酸・スズの値が高いほど、生物の生存が難しくなるという相関がみられたとのことです。

下水道の普及により海の水質は一時期より改善されていますが、今なお生息数が回復しないのは複合的な環境汚染が影響している可能性があります。

「カブトガニ」の保護の取り組み

開発や産業活動が原因でカブトガニの生息に適した環境が激減しましたが、カブトガニを絶滅の危機から救おうとする試みも昭和の初めから続いています。

カブトガニの存続のためには生息地の干潟を保全し生息環境を守ることが必要で、地域の人々の理解や協力も欠かせません。

今でも開発や護岸工事がなくなることはありませんが、カブトガニの産卵場所を新たに創造した成功例が報告されています。

カブトガニの保護の取り組みについては、次の通りです。

天然記念物の指定

国内に生息するカブトガニの重要な産卵場所を守るために、文化財保護法による天然記念物として2箇所が国により、1か所が愛媛県により指定されています。

  • 1928年 国指定 カブトガニ繁殖地(岡山県笠岡市の生江(おえ)浜)
  • 1949年 県指定 カブトガニ繁殖地(愛媛県西条市東予地区海岸一帯)
  • 2015年 国指定 伊万里湾カブトガニ繁殖地(佐賀県瀬戸町多々良海岸周辺)

岡山県笠山市では2003年7月に「カブトガニ保護条例」を制定しました。条例によると、カブトガニ繁殖地内でのアナジャコ掘りや潮干狩りなどの生息環境を乱す行為は禁止事項とされています。

さらに、干潟の泥の中に身を隠しているカブトガニの幼生を守るために、干潟には入らないよう呼びかけています。

カブトガニの繁殖地のエリアと具体的な禁止事項を明確にすることは、カブトガニの生息環境の保護のために有効でしょう。

幼生の放流

幼生の生存率を上げてカブトガニの生息数を回復させるために各地で実施されているのが、カブトガニの幼生の放流です。

岡山県笠山市ではカブトガニの人工増殖を行い、5年かけて育てた第7齢〜8齢の幼生を放流しています。

また愛媛県西条市では、1994年から毎年6千〜1万匹の1齢幼生を放流しており、2010年からは生存率の高い3齢〜5齢の幼生を放流しているとのことです。

他にも山口県下関市・福岡県今津干潟・大分県杵築市・佐賀県伊万里市などで幼生の放流が実施されています。

放流に小中学生・高校生・市民などが関わり、カブトガニの幼生飼育ボランティアを募る例もあることから、地域全体としてカブトガニへの関心を高める効果も期待できるでしょう。

環境教育

カブトガニの保全は、一部の研究者や行政だけで達成できることではなく、地域の市民の理解と協力を得ることが欠かせません。

地域住民や観光客に対して広くカブトガニの情報を発信し、知識を得る機会を提供しているのが、繁殖地を有する自治体の郷土資料館や博物館などの教育施設です。

また、幼生の放流や生息調査などを観察会・イベントの形で実施し、市民の関心を高めている例もあります。

多くの地域住民や市民団体が参加している海岸の清掃活動などの保全活動は、環境教育の効果もあるでしょう。

カブトガニの生息地の環境をこれ以上劣化させないために、多くの人が正しい情報や知識を得て、それぞれできる取り組みを継続することが重要です。

産卵場所の造成

福岡県の加布里湾を通る道路の改築工事に伴い産卵場所が消滅することから、2001年にカブトガニの保全措置として産卵実験場が整備された事例があります。

工事前の産卵場の環境や既存資料などを基に造成地の条件が検討された結果、以下のような内容で施工されました。

砂質中央粒径0.5〜1㎜
砂の厚さ20cm以上
地盤高小潮満潮線~大潮満潮線
砂の流失防止突堤の築造
造成時期産卵シーズンの6〜9月を避ける

産卵実験場の建設の前後に、つがい来浜状況調査・産卵場分布調査・幼生分布調査が実施されています。

調査結果によると、産卵実験場に来浜したカブトガニのつがい数は、造成直後は少なかったものの、造成後3年目以降は12〜18つがいが確認されたとのことです。

また、カブトガニの卵塊数は工事前と同程度に回復し、造成された産卵場はカブトガニの繁殖に問題なく利用されている結果となっています。

さらに、幼生個体数の調査結果は工事完了後は313〜465個体で推移し、工事以前の1.5〜2倍に増加しているとのことです。

以上の結果から、人工的に造成した産卵場もカブトガニの保全に有効であることが伺えます。しかし、カブトガニに最適な環境が、造成直後だけではなく継続的に維持されるかどうかは不明であり、場合によっては維持管理など更なる関わりが必要になるかもしれません。

私達にできること

ここまで、カブトガニの特徴・生態・分布域・生息地・保護活動について、解説してきました。

カブトガニは、多くの種が生まれ絶滅してきた2億年もの長い年月、姿を変えずに生きた特別な生きものです。カブトガニを保全することはすなわち、太古から続いてきた生物相豊かな干潟と汚染されていない海の環境を守ることにつながっています。

国内の身近な海にカブトガニの繁殖地を有する私たちは、カブトガニの行く末と無関係ではありません。各地で市民や行政がカブトガニ保全に尽力していることは、希望の光といえるでしょう。

カブトガニを見てみたい方は、ぜひ繁殖シーズンを選んで生息地を訪れてみてください。観察会や放流イベントに参加して、保全活動を直接体験するのもおすすめです。

カブトガニの生態を知ることも、カブトガニを守るための第一歩。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。