絶滅危惧種 PR

【エゾヒグマとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

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日本国内には2ヶ所だけ、異なる気候を持つ地域があるのをご存知でしょうか?

それは沖縄本島以南の亜熱帯気候地域群と、今回ご紹介する“エゾヒグマ”の主生息地である亜寒帯である「北海道」です。

この2つの地域は四季を持つ本土とは異なり、非常に珍しい生物群が集中しており、生物界ではしばしば研究の的となります。

古くは蝦夷地と呼ばれ、江戸時代後期から明治時代にかけ、本格的な開拓が初めて行われた“北海道”。

先住民族アイヌ人から『キムンカムイ:山の神』と呼ばれ崇められてきた“エゾヒグマ”との付き合いは、ここから実に百数十年間の歳月を共にします。

その間、エゾヒグマによる獣害事件や生息地の縮小などを経験し、現在に至ります。

今回はそんな山の神こと“エゾヒグマ”の現状について、深掘りしお伝えしていこうと思います。

「エゾヒグマ」とは

エゾヒグマは分類上では、食肉目クマ科クマ属ヒグマに属する亜種という位置付けであり、基亜種はヨーロッパ北部からシベリアにかけて広範囲に生息する“ユーラシアヒグマ(ヨーロッパヒグマ)”となります。

ご存知かも知れませんが、日本国内には2種類の熊が野生下に生息しています。

関東・東北地方に生息地が集中する「ツキノワグマ」そして北海道のみに生息する「エゾヒグマ」です。

“恒温動物は寒冷地に行くほど大型化する…”これは有名な「ベルクマンの法則」の一節ですが、ツキノワグマの最大体重記録が173kgであるのに対し、エゾヒグマは実に520kgにも及び、法則通りの巨体を誇ります。

成獣は雌雄差が顕著に見られ、平均値は雄の体長が平均2〜2.5m・メスが1.5〜1.8m、体重はオスが120〜200kg・メスは140〜170kgにまで達し、国内最大の陸生哺乳類として生物ピラミッドの頂点捕食者として君臨しています。

クマ属の中でも見ても、その大きさは最大種 “ホッキョクグマ”に続く大型種です。

余談ですがヒグマの仲間とホッキョクグマはかなり近しい近縁種であり、交雑すら可能となります。

その生息地を鑑みると両者の接触はほぼ皆無ですが、近年は地球温暖化の影響から自然下での交雑個体の事例が公式報告されており、今後の世界規模の環境変化により、新たな懸念材料が浮上しかねない状況にあります。

その印象から肉食獣と誤解されがちですが、実は樹脂すら口にする雑食性の食性を持ち、常食する植物は草木・木の実・果実等を合わせると100種以上にも達するのです。

もちろん他の動物も積極的に捕食しますが、時には海辺に打ち上げられた魚類、アザラシ・トドなどの海獣の屍肉・腐肉、更には共食いをすることさえあります。

遡上するサケを捕らえるイメージがありますが、道内の河川を遡上する回遊魚は戦前に途絶えてしまい、現在は世界遺産に指定された知床半島の個体群に限られています。

他の個体群は北海道全域に多数生息する“エゾカモシカ”を主食・常食としており、その他の動物性タンパク質は主に「昆虫」や「節足動物」等で補います。

草木や木の実等の植物食も頻繁に行い、特に餌が乏しく積雪・降雪が激しい時期は、これらの餌を主食に切り替えるという柔軟さを持ち合わせています。

時にはトウモロコシやメロンなどの農作物を食害する事もあり、2000年代初頭から被害が急増し社会問題にもなっています。

エゾヒグマは生活リズムが不規則な哺乳類としても有名で、活動時間は昼夜を問いません。

発情期・子育て時以外は基本的に単独行動を取り、休息も絶対捕食者らしく気に入った場所で行い、その生活スタイルは一貫性を持ちません。

よく童話や子供の絵本に描かれる様に、冷え込みの強い冬場は「冬眠」を行う印象が強いのですが、厳密には「冬籠り」という表現の方が正しく、変温動物である爬虫両生類・魚類などの冬眠とは異なります。

体温は数℃ほど低下しますが“半覚醒状態”、つまり人で言う“寝ぼけている状態”に極めて近くなります。

時たま「穴知らず」という冬眠場所を確保できなかった個体が出現し,人里まで餌を求めて舞い降りる上に、かなり凶暴化し、現地では最も恐れられています。

過去に起こった数々の獣害事件、その殆どが「穴知らず」の個体によるものです。

出産は冬籠りの期間中に行われ、気温が暖かくなると、1~2等の子連れのメスがよく見かけられます。

この時期のメスは子供を守るため、かなり神経質になり、近づくことさえ命取りになります。

寿命は自然界で約30年と長寿であり、小グマ時代を除けば天敵は皆無で、慎重な性格と頑健な身体のため「ロードキル」と言った自動車事故もほぼ起こりません。

飼育下では35年生きたメス個体が2022年に死亡したという記事が、記憶に新しいものとなります。

特に世界遺産に指定された“知床半島”に生息数が集中し、エゾヒグマの楽園の体を成しています。

この知床半島の個体群は、今後のヒグマ保護、そして人との共存共栄の足掛かりの試金石として、国内はおろか国外からも非常に注目されています。

「エゾヒグマ」の分布・生息地

エゾヒグマの分布・生息域は現在、北海道のみに限定されています。

はるか昔、13世紀ごろは北方四島や周辺諸島で生活をしていた痕跡もあり、近年も最盛期には北海道のほぼ全域で暮らしていました。

ヒグマの亜種という大分類上、日本特有の固有種という言い方は用いられません。
強いて言えば「日本固有の亜種」といった所でしょう。

蝦夷地開拓が始まる以前の江戸時代には、北海道全域に生息していましたが、開拓や人口の流入…20世紀に行われた都市化により生息地が減少し、個体数は急速に減り続けてしまいます。

開拓初期は「三毛別羆事件(1915年)」「石狩沼田幌新事件(1923年)」などエゾヒグマによる獣害事件が道内各地で立て続けに起こり、積極的な駆除の対象になってしまいました。

近年では「福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ襲撃事件(1970年)」を最後に、人との軋轢は起こっていませんが、未だ田畑を荒らす害獣として、農家からは忌み嫌われています。

実はエゾヒグマは100年以上に渡り「害獣として指定」された過去を持ちます。

19世紀末の明治8年(1875年)に初めて、明治政府から害獣の認定を受けており、奨励金制度さえ設けられていました。

そのため都市部はもちろん、山間部で仕事をするマタギや林業関係者による駆除も奨励され続け、その個体数は急速に落ち込んでいきます。

現在は前述した世界遺産・知床半島群にかなりの数が集中しており、その他のエゾヒグマは人気のない森林・原野に追いやられ、温暖な春夏には山間部の中腹や高山地帯にまで生息域を広めています。

エゾヒグマが絶滅危惧種となった理由

既に述べた様に、北海道はかつて蝦夷地という名で呼ばれていました。

江戸時代末期にはかの有名な坂本龍馬など、様々な史上の人物が蝦夷地開拓に挑み、その全てが失敗に終わっています。

ところが遡る事約160年前の1869年(明治2年)明治政府は蝦夷地を北海道と命名し、本格的な開拓事業に着手します。

その弊害となったのが“エゾヒグマ”という訳です。

開拓者の作った農作物や、鶏などの家畜はエゾヒグマに取り、最も容易に手に入る食料でした。
その様な食害に続き、1878年(明治11年)には、とうとう危惧していた事件が起こってしまいます。

それが死者3名・重症者2名を出した『札幌丘珠時間』です。

開墾時に冬籠りの巣穴を壊されたエゾヒグマが、飢えのために人を襲った獣害・熊害事件です。
この事件前の1875年(明治8年)に害獣認定され、わずか一年前には『捕獲奨励金制度』が成立していた事もあり、エゾヒグマの駆除に輪をかけてしまいます。

11年後の1888年には、この制度は一度取り止められるのですが、戦後の1963~1980年に再度復活し、ますます金目当ての狩猟の気質が高まります。

驚く事に1963年に並行して始まった『ヒグマ捕獲金奨励金制度』『計画駆除事業』は平成元年まで続くのです。

それに伴い年を経るごとに、人間が次々と北海道に入植し、本来生息していた場所の宅地化・開墾事業が強まります。

これらの理由から90年代には実に、道内全域の総個体数が、約5000匹にまで減少してしまいました。

現在、国際自然保護連合IUCNでは、エゾヒグマを『絶滅危惧種(VU)』に指定し、レッドリストに入れています。

国内ではエゾヒグマ全体の保護施策はなく、石狩平野西部の地域個体群が「絶滅の恐れのある地域個体群(LP)」に認定されているのみです。

「エゾヒグマ」の保護の取り組み

ところが近年になり、ようやくエゾヒグマ保護の取り組みが押し進み、今まさにその転機を迎えています。

2000年を境に環境省・北海道庁の、エゾヒグマへの施策はガラリと方向転換します。

平成元年に旧来の駆除対策が廃止された事を契機に、エゾヒグマを取り巻く環境は、徐々にですが駆除から保護に移り変わり、今では完全に保護優先の動物として扱われています。

既に述べた様に2015年には環境省より、札幌市を含む石狩平野西部の地域個体群が限定的にレッドリスト入りし、翌年には北海道レッドリスト・札幌市版レッドリストもそれに追随しています。

このため2022年には総個体数が倍増し、約10,000匹にまで増え続けています。

しかし長年続けた駆除施策撤廃・捕獲の緩みから、人間を恐れず警戒心を持たない『新世代ベアーズ』というエゾヒグマの世代が台頭しつつあります。

エゾヒグマの知能は、犬以上・類人猿以下と言われるほど高く、非常に高い学習能力を有しています。
そのため、民家近くの畑や家畜などの畜産財産を捕食するのに、一切のためらいがありません。

人を恐れない事もあり、頻繁に市街地に出没し、生ゴミなどを漁る姿も見かけられるほどです。

エゾヒグマは一度口にした餌への執着心が非常に高く、自警団や猟友会が脅し行為をしても、執着心の方が勝るほどです。

幸いにも人的被害は起こっていませんが、この様な状況下が長く続き、落ち着きを取り戻すとは思えません。

そのため人間側はあらゆる対策を施しています。

出没状況のリアルタイム収集・場所や地域などをスマホアプリで住民に迅速に伝えるなど、危機管理の徹底に努めています。

「侵入抑制策」も行政と動物学の専門家間で、官民一体となり積極的に行われており、農作物の被害が多い地域を特定し、電気柵などを設けエゾヒグマの食害を防ぐ試みも試験導入されています。

また、エゾヒグマは遮蔽物のない開けた場所を嫌うので、農地周辺に意図的にその様な地区を作ったり、藪などを適切に手入れし集落との接触も避けています。

その他には赤外線カメラの常備設置や、残された体毛や排泄物からDNA解析を行い、一頭一頭の行動パターンや性格をくまなくリサーチしています。

現在エゾヒグマの保護・保全は、安易な殺処分・駆除に依存せず、人との共存共栄を目指している真只中です。

どうしても悪いところばかり目につきがちなエゾヒグマですが、その昔“蝦夷地”と呼ばれていた頃は、先住民族アイヌ人との関係は極めて良好でした。

裏を返せば、本土の人間がエゾヒグマの本来の住処を、奪い続けていると言っても過言ではありません。

国内の北海道にしか生息しないエゾヒグマ、世界的にも日本の固有亜種であり貴重な生き物です。

うまく共存共栄を果たし、末永くエゾヒグマの姿を大切にしたいものですね。