絶滅危惧種 PR

【タガメとは】特徴や生息地・絶滅危惧種の原因や保護の地理組みについて

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失われてゆく田園風景の中、生物もまた姿を消していきました。

水生昆虫は特に人間の経済活動の波に揉まれて次々と姿を減らし、多くは絶滅危惧種に。

生き物が好きで生物採集をする中でもなかなか見ることができない水生昆虫。その中でも今回は日本水生昆虫界の王者、タガメについて紹介をしていきます。

「タガメ」とは

タガメはカメムシ目コオイムシ科タガメ属に属する生物です。

「えっ、カメムシ?」と思った方も多いでしょう。カメムシは危険を察すると異臭を放つことで有名な虫で、嫌われものといって差し支えのない生物です。

しかし、タガメは臭いを出すことはないので安心してください。カメムシの中でも臭いを出すものと出さないものがいることは覚えてもらえると幸いです。(大抵のカメムシは臭いを出します。)

余談はさておきタガメはその名の通り、田んぼや池、小川などに生息する昆虫でその大きさは60ミリメートルを越える日本最大の水生昆虫であり、日本最大のカメムシでもあります。昆虫好きであれば知らない人はいないほどの知名度と希少性のある生物です。

肉食の昆虫で水中では上位に君臨するプレデターであり、小魚や両生類、その他水生昆虫など自分よりも大きな生物をも襲うことがあります。ときには10センチを越えるトノサマガエルやフナなどを素早く捕獲します。

その形態は茶色の体色に、鎌状になった前足が特徴的な虫です。この鎌状の前足には鋭い爪があり、強靭な力があるため一度捕まえたら獲物を離しません。足は毛が密生しているため、オールのようになっているため水中を力強く泳ぐ遊泳脚になっています。

口には口吻と呼ばれる針のような器官を口に持ち合わせており、これを獲物に突き刺して消化液を獲物に送り込み、中の肉を溶かしながら体液を吸います。

この口吻はのこぎりのようにギザギザとした微小な突起が生えているため一度突き刺さると抜けにくい形状になっています。口吻はストローのようになっているため、獲物から体液をチューチューと吸います。

腹部の先端には短い呼吸管があります、水中で獲物を待ち構えるタガメはこの呼吸管を水中から空気中に出すことでわざわざ移動することなく空気を吸うことが可能です。

忍者の水遁の術のような呼吸法です。そのため、木の枝や水生植物を足場にして水面近くで獲物を待ち構えていることが多いです。むしろ足場がないと体力を消耗してしまうため、飼育下で水だけを入れていると衰弱死してしまうほどです。タガメにとって足場となる水生植物や水草は大事な存在なのです。

また、水生昆虫ながら大きな羽を持っているタガメはその背中の羽を羽ばたかせることで力強く飛翔することができます。こうして住処の水が少なくなった場合や、獲物が少なくなった際に新しい住処を求めて元の住処を後にします。

主に水田や、水田脇に作られた水路などに多く生息するタガメは水草や水生植物が豊富な止水域を好んで生息します。好みの水深は5〜20センチ程度とされています。ちょうど田んぼなんかが彼らにとっては住みやすい場所であるようです。

タガメは夜行性であり、昼間はその体を泥に埋めて外敵から身を守っていることが多いです。待ち伏せすることが多いですが、夜は外敵からの危険も少なく、獲物も眠っている時間であるため活発に泳ぎ回って餌を探すこともあるようです。

繁殖も夜間に行うため、タガメが活発に動き回る姿が目撃されるのは夜間であることが多いです。

タガメの繁殖は初夏に行われます。これは日照時間に関係しており、日照時間が13時間以上になると繁殖のスイッチが入り、メスは繁殖期の中で2〜4回産卵を行います。

交尾を終えたメスは硬い茎や木の枝に卵を産み付けます。タガメの卵は水中ではなく、水上に産み付けます。メスは交尾して卵を産み終えるとそのまま別のオスを探しに飛び立ってしまいます。

一方でオスは卵が孵化するまでの間、世話をするイクメンになります。タガメの卵は空気中で放置すれば乾燥して死んでしまい、水中でも呼吸ができずに死んでしまいます。

オスは定期的に水中へ戻り、自らの身体につけた水で卵の乾燥を防ぐほか、体内に蓄えた水を吐き出して卵に水分を与えたりします。

こうして産卵から2週間、オスは食事を取らずに卵を守ります。卵は夜間から明け方にかけて孵化して、生まれたタガメの幼虫は次々と水中へ落ちていきます。同時にオスは役目を終え、繁殖期が終わるまではメスを探して繁殖活動を続けます。

この繁殖期の中でタガメのメスは珍しい行動を取ります。それはメスが産み付けた卵を破壊するという行動です。

タガメは生態系でも上位に君臨する生物で、もちろんたくさんの子どもが生まれてしまっては、自分の子どもが食べるための餌が少なくなってしまいます。自分の子孫をより多く残すために、タガメのメスはそのほかのメスが産み付けた卵塊を破壊に向かいます。

その一方でタガメのオスが卵塊を守っているため同じタガメであっても卵に近づくものは鎌状の前足を振り上げ、迎撃体制に入ります。

ですが、タガメのオスはメスよりも小さく、メスは卵を守っているタガメのオスを圧倒して追い払ってしまいます。そして守るものがいなくなった卵塊を破壊するのです。こういった「子ども殺し」の行動は珍しく、昆虫類ではタガメしか行いません。

野生下においてはタガメの寿命は1年であり、夏に生まれたタガメは冬には越冬、次の初夏に繁殖を済ませると夏の終り頃に寿命を迎えます。

「タガメ」の分布・生息地

タガメは北海道から本州、四国、九州、南西諸島と北から南まで幅広く生息している昆虫です。しかし、全国的にタガメは減少しており、山形県、東京都、神奈川県、長野県、石川県、高知県では絶滅種に認定されてしまいました。

また青森県、新潟県、富山県、滋賀県、徳島県、香川県、愛媛県、長崎県でもその姿は確認されておらず、絶滅した可能性が高いとされています。

全国的に生息していながらも、その個体群の少なさから多少の要因でいとも簡単に絶滅へと向かっているタガメ。

実に14都県で絶滅したものと考えられており、現在では絶滅危惧種Ⅱ類に認定はされていますが、もはやⅠA(一番絶滅に近いとされている)に認定される日も近いかもしれません。

「タガメ」が絶滅危惧種となった理由

タガメが絶滅危惧種になってしまった理由は大きく3つ挙げられます。

まずは住処となる水田の減少です。

人間の活動にともなって数を増やしてきたタガメは田植えに合わせて田んぼに現れ、オタマジャクシやドジョウなどを捕食し、夏に田んぼの水が抜かれるとともに水深のある池などに住処を移して、周辺の土の中で越冬する。

そんなライフスタイルを送ってきました。しかし、水田の減少によりタガメは住処をなくしてしまいました。周辺の用水路も舗装され、流れも早くなり、タガメの足場となる水生植物も数を減らしました。そのためタガメの生育に適した環境は少なくなりました。

次に農薬です。

害虫駆除や病気防止のために稲作に農薬は必要不可欠です。人体や自然への影響を考慮し、毒性の低い農薬は作られ続けていますが、タガメにとっては猛毒です。

タガメは農薬にめっぽう弱い生物で、農薬一滴を垂らした水で生育したグッピーやメダカを食しただけでも死んでしまいます。ちなみにこの程度の農薬では小魚はピンピンしているわけですが、こういった農薬の影響を最も受けたと思われる生物がタガメなのです。

そして最後に外来種です。

1900年初頭に持ち込まれたアメリカザリガニは雑食でありながら、あの見た目でベジタリアンという側面を持ちます。

このアメリカザリガニが侵入した池や水路では水草や水生植物が芽のうちに食べられてしまい、まるで砂漠のような風景になってしまいます。

こんな環境下ではタガメの生育に適さず、足場もなく、タガメは次の住処を探して姿を消しました。住処を探す中で力尽きた個体や捕食されたものもたくさんいたでしょう。

ウシガエル、オオクチバスといった外来種は口に入るものであれば何でも食べる悪食です。そのため、タガメの多くがこれら外来生物に食べつくされてしまったことも減少に多くの影響を与えました。

捕食もそうですが、住処をまるで別物に変えてしまうこともタガメが減少したことに大きな影響を与えるなど、外来生物は様々な面でタガメへ悪影響を与えています。

また希少価値が高くなってしまったタガメは生物マニアからの人気も高く、秘密裏に行われている乱獲や採捕によって、ただでさえ少ない個体群へプレッシャーを掛けています。

こういった人間の経済活動の中でタガメは大きく数を減らし、いつしか「幻の昆虫」と呼ばれるようになりました。

「タガメ」の保護の取り組み

タガメは現在「特定第2種国内希少動植物種」という枠組みで保護されており基本的には飼育目的や販売目的での捕獲が禁止されております。

水族館や博物館などで各地の個体群を復活させるべく、飼育、繁殖が行われ成長した個体を放流するなどタガメの数を戻すべくして活動が行われています。

しかし、あまりに個体数が少ないことや、その個体群も範囲内で点々と移動するなど保護すべきポイントを定めることが難しく、タガメ自体の保護活動は難しい状況になっています。

本来であれば無農薬での稲作や、人が管理する里山の復活など、タガメの保護に限らず、数十年前の田園風景を人為的に作っていくことが理想ですが、どこでもこういった事ができるわけではなく、タガメを社会全体で保護していくことは難しいように思えます。

しかし、こういった環境を作らなくては放流したタガメも死に絶えてしまうため、タガメに限らず多くの生物が多様な関係性を作っていける環境を整備していくことが我々にできる唯一の保護法ではないかと思います。