絶滅危惧種 PR

【イリオモテヤマネコとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

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沖縄県八重山郡竹富町に所属する西表島は、八重山諸島において最大の面積を持つ島です。

非常に変わった動植物の宝庫でもあり2021年7月26日、世界自然遺産として登録されました。

西表島では、古くから山麓から海岸にかけての低湿地帯に「野生の猫」らしきものが生息していると島民に認識されています。「ヤママヤー(ヤマネコ)」や「ヤマピカリャー(山で光るもの)」と方言で呼ばれていました。

専門家の捕獲から逃れ、長い間正体不明の謎の存在でしたが、1965年に個体の生け捕りに成功します。

当初は西表島の固有種と断定され「イリオモテヤマネコ」と名付けられました。

今回はこの「イリオモテヤマネコ」に関して深堀りしていきたいと思います。

「イリオモテヤマネコ」とは

イリオモテヤマネコは現在、詳細なDNA解析により、西表島の固有種ではなく東アジア一帯に生息する“ベンガルヤマネコ”の亜種に分類されています。

ベンガルヤマネコの亜種であるイリオモテヤマネコですが、英名は“Iriomote cat、Iriomote wild cat”、学名は“Prionailurus bengalensis iriomotensis”、英名・学名共に「イリオモテ」の名が入っており、固有種時代の名残がその名に色濃く残り続けています。

食性は他のネコ目ネコ科の動物と同じで完全な肉食性です。その寿命は野生下では7~8年、飼育・保護下では8~9年と言われており、飼育下での最高齢は15年1カ月です。これは現状確認されている最高齢記録となります。

体長は50~60cm、尾部は23~24cmまで成長し、メスの個体の方がやや小柄と言われています。体重は平均して3~5㎏程になります。

西表島に生息する、小型の哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・昆虫類など、実に多種多様な生き物を捕食して暮らしています。

昼間に活動することもあるのですが、基本的には日暮れ時や明け方に活発に活動を行う“薄明薄暮型”と呼ばれる一風変わった夜行性形態をとっています。

イリオモテヤマネコは単独行動が基本で、なわばりを持つオス個体となわばりを持てない若い放浪個体であるオスとに分かれています。

オスのなわばり圏内には常時1~3匹ほどのメスが暮らしていると言われます。

発情期の約6カ月勘に限定し、オスとメスのつがいが共同生活を行います。

西表島は総面積が約290km2と、東京都23区全体の半分ほどしかありません。更には餌となるネズミ類がいないため(後に本土のクマネズミ類が貨物に紛れ移入しています)ネコ科の動物にとっては、かなり生活に適していない環境と言えるでしょう。

ただイリオモテヤマネコは進化の過程で、西表島の環境で生き残れるような適応能力を獲得しています。

例えばヘビやカエルなどの爬虫・両生類は、一般的に他の野生種のネコが食べることはありません。しかしイリオモテヤマネコはそれらを始めとした島の様々な動物を餌にしており、独自にその種を繋いできました。

哺乳類ではリュウキュウオオコウモリやリュウキュウイノシシの若齢個体、鳥類はシロハラクイナ・オオクイナのクイナ類、中でもオオクイナはほぼイリオモテヤマネコの主食です。

爬虫・両生類はキシノウエトカゲや琉球諸島固有のカエル類、コオロギなどの昆虫やエビ・カニなどの甲殻類まで捕食します。

イリオモテヤマネコの狩場は沼地や海岸などの低地帯にあることが多く、水中の魚類を捕獲するため、時にはダイビングをして狩りを行います。

そして最大のメリットは、西表島には餌を巡るライバル…つまり別の種類の肉食動物が本来生息していないことです。

ライバルは同じ仲間のイリオモテヤマネコたちだけなんです。

季節ごとの食性の変化がその糞便から明らかになっており、年間を通じての基本が、鳥類50%・昆虫20%・爬虫・両生類が15~20%ほどの内訳となります。夏と春には爬虫・両生類の摂取量が増え、秋と冬にかけては昆虫類・コウモリを食べる割合が飛躍的に伸びます。

季節に応じて柔軟に捕食対象を変えることが可能です。

繁殖期は交尾期と出産・子育て期が明確に分かれており、それが長期に渡るという、一風変わった形態を取ります。

発情したオス・メス共に、薄明薄暮型の夜行性生活に加え、日中も活発に行動するようになります。基本単独行動の彼らですが、この時期のみオス・メスのつがいで生活します。12月から3月まで続くこの時期が「交尾期」と呼ばれています。

この期間にメスは妊娠をし、4~6月の間の出産・子育て期にはメスは一匹で子猫の面倒を見るという訳です。

メスは木の洞や小さな洞穴などの、乾燥し換気が良い場所を選んで、通常1~3頭ほどの子猫を出産します。

乳離れし子育てが終わっても、およそ11カ月もの間母親と共に暮らし、その後親離れをします。ただ明確な親離れ…という訳ではなく、中には数年もの間母親の生活圏内に留まる個体もいるそうです。

子猫たちが性成熟に要する期間は約9カ月です。最低でも一年半ほど母と子は共同生活をするようです。

群れを作らない哺乳類、その子育てにしてはかなり長めの部類に入ります。

更に、西表島の様な規模の小さな島に、野生の肉食哺乳類が限定的に住み続けている。この事は世界的に見ても極めて稀な事例です。

1972年、アメリカからの沖縄本土復帰に伴う形で国の天然記念物に指定され、その5年後の1977年には特別天然記念物の指定を改めて受けています。

発見当初からベンガルヤマネコの近縁種と指摘されたと記述しましたが、当時、西表島の特有種・固有種として判断された根拠は「亜熱帯に生息する哺乳類には非常に珍しく、その歯に“年輪”ができる」こと、そして「他のベンガルヤマネコに準拠する種は肛門内部に肛門腺(臭腺)があるのに対し、イリオモテヤマネコは肛門を取り囲む様に存在する」という明白な違いがあったからです。

「イリオモテヤマネコ」の分布・生息地

一時は西表島の固有種と間違われたように、近隣の琉球諸島には一切生息していません。あくまで「西表島」のみに生息している、変わったヤマネコです。

西表島は標高300~400mほどの低山地帯と、亜熱帯気候特有の群生林がその大半を構成しています。

森の中には大小数多くの河川が流れ、それを囲むようにマングローブ林が密生しています。

イリオモテヤマネコの分布域は、その様な河川に沿った場所、森の奥深くではなくやや開けた部分、湿度の低い場所、そして海抜200m以下の低地に多く見られます。

イリオモテヤマネコがこのような環境を好む理由は、先ほど説明したその“食性”に他ありません。これらの場所は、コナラやシイの木・沿岸林・マングローブ林などが密集する植生環境下にあります。

その様な場所には、餌となる生き物が豊富に生息します。自然とイリオモテヤマネコの生活拠点になるという訳です。

「イリオモテヤマネコ」が絶滅危惧種となった理由

イリオモテヤマネコは沖縄県の本土復帰直後の1974年から、当時の環境庁主体でその生態調査が行われています。元々限られた面積である西表島にのみ生息する野生動物です。
当初からその総個体数は多くはありませんでした。

1994年次の調査では、生存個体数は108~118頭と言われていましたが、近年にかけて減少傾向が顕著に見てとれます。

2021年現在は、推定40~100頭の間ではないかと推測されています。

現象の最大の理由は土地開発による生息地の消失、及び環境破壊です。

島民のための住宅地や生活道路、農業用地の整備が最初のきかっけと言われていますが、全島民は2000人ほどです。

そこまで致命的なきっかけではありません。

実は近年における宅地開発・リゾート観光地としてのホテルなどの増設が、その生息域をかなり圧迫しているのが現状です。特に原生林の伐採や、餌場となる湿地帯の干拓・埋め立て事業が致命的であり、西表島の観光開発を再検討するきっかけにもなっています。

そして近年最も危惧されているのが、これら宅地開発の際に敷かれた道路です。

西表島は見晴らしも良く、信号も3つ(2000年来訪時)しかない交通事情があり、観光客・島民両者とも制限速度はほぼ守りません。

そしてほとんどの道路が、低地帯を好むイリオモテヤマネコの生活圏に重なっています。

このため、近年では交通事故死による個体減少(特に幼い子猫)が大きな問題となっています。

第三の理由は外来種、つまり家猫の持ち込みです。

西表島にのみに生息するイリオモテヤマネコには、他のネコからの伝染病に対する抗体は一切ありません。そのため飼い猫・捨て猫との接触により感染症を発症し、命を落とす個体も少なくはありません。

最も懸念されているのが致死率の高い疾患である「猫免疫不全ウイルス感染症(いわゆるネコエイズ)」です。

またそれらの猫との交雑による純血個体の減少“遺伝子汚染”も危惧されています。

「イリオモテヤマネコ」の保護の取り組み

1999年に「西表島野生生物保護センター」は島内にいる飼い猫・野良猫約50匹とイリオモテヤマネコ23匹に対し、猫免疫不全ウイルス(FIV)調査をしました。

幸いにもFIVに罹患したイリオモテヤマネコはいませんでしたが、その他の猫からは3匹のFIVキャリアが発見されます。

そのため西表島が属する沖縄県八重山郡竹富町では、飼い猫の登録義務を必須とする独自条例「ネコ飼養条例」を2001年に制定しています。

2008年の改訂版では新たに「去勢・避妊手術の義務化、マイクロチップの埋め込み、予防接種、ウイルス検査」が必須事項として追加され、かなり厳しい条例となりイリオモテヤマネコの減少を行政面から食い止めています。

餌となる両生類では、強力な毒腺を持つ外来種“オオヒキガエル”が西表島に入り込んでいることが発覚し(元々熱帯地方のペット蛙だったこの蛙は、近年沖縄を中心に劇的に帰化しており、在来生物の驚異として認識されていました)島民の力を借りた駆除作業も行っています。

更に1995年には、環境省が種の保存法に基づきイリオモテヤマネコの保護を主とする「西表野生生物保護センター」を開設します。

保護センターは道路下へのイリオモテヤマネコ専用トンネルを数多く設置し、事故多発地点には標識を立て、交通事故死減少に一役かっています。

野良猫などは見つけ次第捕獲し、なるべく県外の里親へ送り出す「里親制度」も継続中です。

近隣の石垣島にすでに定着しているオオヒキガエルには、石垣島と協力し定期的な駆除作業を行っています。

また交通事故や衰弱した個体を積極的に保護し、治療・リハビリを施し野外に送り返すという、イリオモテヤマネコにとっての駆け込み寺の役割も果たしている上、24時間体制のホットラインも開設し、至急の保護が可能な施設として十分すぎる役割を果たしています。

この様にイリオモテヤマネコの保護は、調べた限りでは行政面での保護施策が
積極的に行われています。