絶滅危惧種 PR

【アマミノクロウサギとは】特徴や生息地・絶滅危惧に至った原因

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日本に存在する特別なウサギ、希少種アマミノクロウサギについて知りたくありませんか?

アマミノクロウサギは、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類(IA類に次いで、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に掲載されている野生動物です。

最後まで読んでいただくと、アマミノクロウサギの特徴・生態・分布域・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。

「アマミノクロウサギ」とは

アマミノクロウサギは、兎形(とけい)目ウサギ科アマミノクロウサギ属に分類され、アマミノクロウサギ属を構成するのはアマミノクロウサギ1種のみです。

耳も後ろ足も短めで、ウサギの中では原始的な体形をしています。

見慣れたウサギのイメージとはかけ離れていて、ネズミやネコのように見えるかもしれません。

南の島にすむ変わったウサギ、アマミノクロウサギの特徴や生態について説明していきます。

アマミノクロウサギの特徴

アマミノクロウサギは体長(頭の先から尾の先まで)41~51cm、体重1,300~2,700gです。

大きさはノウサギと同じくらいですが、目と耳が小さめで、鼻も低めとなっています。

後ろ足が短いので逃げ足は速くありませんが、前足にある長い爪で地面に穴を掘るのが得意です。

背中は黒褐色から茶褐色で、夜の暗闇の中では真っ黒に見えます。

夜行性で群れを作らず単独で生活し、秋から冬の方が活動的で、寿命は飼育下で15年とのことです。

アマミノクロウサギは、奄美の島で独特な進化をしてきたウサギなのです。

アマミノクロウサギの食べもの

アマミノクロウサギは、他のウサギと同じく植物食です。

森林ではアカメガシワ・スダジイなどの樹皮・実・芽、草原ではススキなどを食べますが、中でもスダジイのどんぐりは大切な食料となっています。

食べ物を求めて、林道など開けた道路に出てくることも多いようです。

鋭い前歯(切歯)で噛み切ったものを奥歯(臼歯)ですり潰して食べますが、食べ跡は鎌で切ったような鋭い切り口になります。

アマミノクロウサギの暮らしには、食べものが豊富にある森林や草原が不可欠です。

アマミノクロウサギの巣穴

アマミノクロウサギは、前足の鋭い爪を使って長いトンネルを掘り、巣穴を作ります。

穴を掘らずに、岩と岩の隙間を利用することもあるようです。

巣穴の中は夏でも気温が20度くらいで一定なので、アマミノクロウサギにとって大切な生活空間となります。

地面に掘った巣穴の入口は綺麗な円形で、直径20~25cm、長さは160~200cmです。

巣穴がたくさん見つかる場所もありますが、7割くらいは使われていません。

いつも使う巣穴、たまに使う巣穴など使い分けているようです。

アマミノクロウサギの子育て

アマミノクロウサギは一年中を通して繁殖が可能ですが、主な繁殖シーズンは早春と冬です。

親ウサギは自分の巣穴の他に子育て用の穴を掘り、穴の中に落ち葉や体毛を敷き詰めて出産します。

子育て用の巣穴の入口は直径10cm未満が多く、長さは1mくらいです。

母ウサギは巣穴の中で1~2頭の子どもを産むと、巣穴の入口を土やコケを使って念入りに塞いでしまいます。

その後、2日に1回のペースで深夜の決まった時間に巣穴に戻ってきて、子どもに授乳します。

授乳にかける時間は5分未満なのに、巣穴を掘ったり埋めたりで30分以上かかるとか。

自分の子どもを埋めてしまう行動には驚きますが、天敵であるハブから子どもを守るためといわれています。

大切に守られた子どもは、2か月ほどで巣穴の外に出られるほどに成長します。

「アマミノクロウサギ」の分布・生息地

アマミノクロウサギは、世界中で鹿児島県奄美大島と徳之島の2島だけに生息している日本固有種です。

アマミノクロウサギの祖先は約900万年前に他のウサギの種類と分かれて、ユーラシア大陸に分布していました。

その後、奄美群島は約700万年前にユーラシア大陸から切り離されることになります。

大陸にいたアマミノクロウサギの祖先は天敵の繁栄で絶滅しましたが、アマミノクロウサギは島にとじこめられる形で生き残り、独自の進化をしてきたのです。

「アマミノクロウサギ」の生息地

アマミノクロウサギの生息地は、奄美大島と徳之島の中でも、耕作地以外の海岸域から山までです。

アマミノクロウサギは森林や草地を利用し、人間の生活に近い場所でも生息しています。

アマミノクロウサギの行動範囲は、巣穴から100~200mくらいで面積は2~3haです。

アマミノクロウサギが生きていくには、豊富な餌と巣穴を作って安心して暮らせる森が欠かせません。

「アマミノクロウサギ」の生息数

アマミノクロウサギの生息数は、ここ数年で回復してきています。

アマミノクロウサギの推定個体数は、2021年の速報値によると奄美大島で10,000~34,000・徳之島で1,500~4,700となっています。

2003年の記録では、奄美大島で2,000~4,800・徳之島で200でした。

アマミノクロウサギの生息数は、保護活動の成果によって約20年で約7倍となっています。

「アマミノクロウサギ」が絶滅危惧種となった理由

人間の活動により、アマミノクロウサギが大幅に数を減らしてきたのは事実です。

アマミノクロウサギは、森林開発によって住む場所と餌を奪われ、人が持ち込んだ動物によって捕食されてきました。

アマミノクロウサギは日本固有種なので、日本での絶滅は「地球上からいなくなること」を意味します。

アマミノクロウサギを絶滅から救うために、絶滅危惧種となった理由を知ることが必要です。

森林の減少

奄美大島では、1960~70年代に、全島的に森林が伐採されました。

森林が伐採されると、巣穴を作る場所が壊され、どんぐりや下草などの大切な餌が失われます。

巣穴も餌も確保できない状況では、繁殖もうまくいきません。

森林伐採により、アマミノクロウサギが生息できる環境が急激に失われていきました。

持ち込まれた天敵

人間が持ち込んだフィリピンマングース、ノネコなどの移入種がアマミノクロウサギの脅威となっています。

奄美群島では、幼獣を襲うハブ以外に天敵となる生物がいなかったので、アマミノクロウサギは逃げるための長い耳や後ろ足をもたずに済んでいました。

フィリピンマングースはハブの駆除のために持ち込まれましたが、アマミノクロウサギの巣穴に入って幼獣を食べてしまいます。

また、ノネコは飼い猫が野生化したもので、巣穴の前で待ち伏せしてアマミノクロウサギを襲う様子がセンサーカメラで撮影されています。

奄美群島には移入種から身を守ることができない希少種が多いので、移入種問題はアマミノクロウサギだけの問題ではありません。

交通事故

アマミノクロウサギの生息数の増加にともなって、近年増えているのが交通事故です。

特に9月~12月はアマミノクロウサギの活動が活発で、道路に出てくることが多くなるためか、事故件数が多くなります。

交通事故が起きるのは、山の中の道路だけではなく、街と街を結ぶ県道です。

アマミノクロウサギは夜行性なので、夜間の走行には特に注意が必要といえます。

「アマミノクロウサギ」の保護の取り組み

減少してしまった日本固有種アマミノクロウサギを守るために、国・自治体・専門家などが協力した取り組みが進行しています。

アマミノクロウサギを対象にした法令などは、次のとおりです。

  • 鳥獣保護法: 生息地の一部を国指定湯湾岳鳥獣保護区に指定
  • 文化財保護法: 生息地の一部を紙屋・湯湾岳天然記念物林に指定
  • 文化財保護法: 国の特別天然記念物に指定
  • 種の保存法: 国内希少野生動植物種に指定
  • 大和村野生生物保護条例により大和村内(奄美大島)での捕獲等の禁止

アマミノクロウサギの生息数は増加傾向ですが、成果をあげている保護の取り組みをいくつかご紹介していきます。

フィリピンマングース対策

罠によるマングースの捕獲が2000年から始まりました。

フィリピンマングースは、40年ほど前にハブを駆除するために導入されましたが、ハブよりも希少種を襲う結果となっています。

当初は個別的な捕獲に頼っていましたが2005年からは組織化され、島全域に約3万個の罠が設置されました。

ピーク時に10,000頭といわれていたフィリピンマングースが、2018年を最後に捕獲されていません。

特別に訓練されたマングースドッグを使った調査でもフィリピンマングースは見つからず、根絶の希望がもてそうです。

ノネコ対策

2018年に環境省・鹿児島県・奄美大島5市町村が共同で「ノネコ管理計画」を策定し協力を進めています。

ノネコとは、もともと放し飼いだった飼い猫が集落から離れて野生化して増えていったものです。

ノネコが奄美の希少な動物を襲う様子が、センサーカメラなどにより何度も記録されています。

管理計画により、ノネコを捕獲して不妊化手術をしてから戻すという取り組みや、飼い猫を適切に飼うように呼びかけが進められています。

最近ではセンサーカメラに映るノネコが減っているとのことで、取り組みの効果が期待されます。

交通事故対策

交通事故を防ぐため、交通事故防止キャンペーンを行ったり、看板をたてて呼びかけたりしています。

アマミノクロウサギが道路に入るのを防ぐために防獣ネットを設置した場所では、事故件数が減ったとのことです。

アマミノクロウサギの生息地では、夜間の通行止め・web予約制による台数制限なども試行されています。

住民や観光客にルールを守ってもらうなど、アマミノクロウサギ保護対策についての理解と協力が欠かせません。

農業被害対策

奄美大島・徳之島では柑橘類の タンカンが栽培されていますが、アマミノクロウサギによる食害が起きています。

アマミノクロウサギがタンカンの樹皮や葉を食べて枯らしてしまうので、農家にとっては見過ごせない損失になるのです。

アマミノクロウサギを傷つけることなくタンカン被害を防ぐため、特別に工夫された金網や電気柵の設置が始まりました。

人の生活とアマミノクロウサギの保護が、お互いを排除し合うのではなく尊重し合って共生していくことが大切です。

私達にできること

奄美群島はたくさんの固有種を有し、生物多様性が評価されて2021年に世界自然遺産に登録されました。

世界自然遺産になったということは、人類の宝として未来に残す約束をしたということです。

世界自然遺産にぜひ行ってみたい、アマミノクロウサギを野生で見てみたいという人は、島を訪れる時に次のことを参考にしてください。

  • 夜間の車の運転はすぐに止まれる速さ(時速10km以下)で走行
  • 観察する時は、野生生物から距離をとって静かに行う
  • 野生生物に会いに行くなら、認定ガイド同行のツアーに参加

ここまで、アマミノクロウサギの特徴・生態・分布域・生息地・保護活動について、解説してきました。

今後も奄美の豊かな自然と人々が、平和に共存していくことを願ってやみません。

アマミノクロウサギの生態を知ることも、アマミノクロウサギを守るための第一歩です。