その肉も、皮も、角も、胃の中の石までも、余すことなく使いきれる動物がいたとしたら……人間の格好の獲物になってしまうであろうことは想像に難くありません。
しかし、今から100年ほど前、実際にそんな生き物が存在したのです。
その名もポルトガルアイベックス。
彼らは人間にとって都合が良い性質を持つというだけで絶滅させられてしまった、哀れなウシ科の動物です。
彼らのどういった点が人間の欲を掻き立て、絶滅にまで至らしめたのか。
今回はそんな彼らの生態に迫ってみたいと思います。
「ポルトガルアイベックス」とは
身体的特徴
険しい山に適応するため、体は重いものの足は短く、がっしりとしていました。
そのおかげで、切り立った山肌を音もたてずに上ることができました。
現存する仲間の種であるスペインアイベックスによく似た姿をしていたそうです。
オスの角はスペインアイベックスの半分ほどの大きさでしたが、根元の太さは2倍にもなり、どっしりとして大変見事だったそうです。
オスにもメスにも両方、豊かなあごひげが生えていました。
また体毛は季節によって異なり、夏がチョコレート色や赤褐色、冬は白く、毛がより厚くなったんだとか。
生態的特徴
冬にはオスメス合わせて10頭くらいの小さな群れで暮らしていました。
繁殖期は11月~12月で、その時期になるとオスはメスを奪い合うためにその自慢の角を使って戦っていました。
「ポルトガルアイベックス」の分布・生息地
ポルトガルアイベックスは、スペインからポルトガルの間にある険しい山の中で暮らしていたそうです。
「ポルトガルアイベックス」の絶滅した原因
まず、彼らが非常に立派な角を持っていたことが悲劇の始まりでした。
ハンターたちは頭部の剥製をつくるために、次々と撃ち殺しました。大きな角は笛に加工することも出来、これもまた乱獲に拍車をかけていきました。
それだけでは絶滅には至らなかったかもしれません。
しかしこのポルトガルアイベックスという生き物は、肉は美味く、皮は防寒に優れ、その上胃の中にある結石が解毒剤として珍重されたため、雄雌見境なく狩り尽くされることになってしまったのです。
「ポルトガルアイベックス」の生き残りの可能性
19世紀にはすでに絶滅に近づいていたという彼らが最後に目撃されたのは、1891年。雪崩の下敷きになって死んでいた2頭です。
それ以降メスを見かけたという報告は何度かあったそうですが、それも正確なものとは言えませんでした。
そのため時期ははっきりしないものの1900年までには確実に絶滅してしまっただろうと言われています。
まとめ
似た種類の仲間であるスペインアイベックスが生き延びたにも関わらず、人間にとって都合のいい特性を持っていたというだけで絶滅にまで追いやられてしまったポルトガルアイベックス。
彼らの胃の中の解毒剤をもってしても解毒できない人間の欲とは、いったいどれほどの猛毒なのでしょうか。