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【モリアオガエルとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

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モリアオガエルというカエルを耳にしたことはありますか。

俗に「アオガエル」というと真っ先に「ニホンアマガエル」が思い浮かびますが、ニホンアマガエルより2回りほど大きく、分布息・生息域も限られている日本固有種のカエルです。

「シュレーゲルアオガエル」という非常に酷似した種類がおり、発見当初はシュレーゲルアオガエルの2つの変異種「モリアオガエル」「キタアオガエル」として誤載されていました。

後の詳細な分類検討により、キタアオガエルはシュレーゲルアオガエルの色彩変異種、そして今回の主役「モリアオガエル」は近縁種ですが、全くの別種であることが判明しています。

環境省やワシントン条約に記載されるほど総個体数は危惧されていませんが、近年は徐々にその個体数を減らしている上に、特定地域群の著しい減少・国内移入による遺伝子汚染などがクローズアップされています。

「モリアオガエル」とは

モリアオガエルは地域ごとにかなりの差異が見られるカエルです。

その全長もオスは42~62mm、メスは59~82mmほどとかなりの幅があり、地域群の差が顕著に表れるカエルとして知られています。

その体色も個体差が非常に大きく、緑色一辺倒のまさしくアオガエルと呼ばれるような個体から、全身に多数の褐色の斑点が並ぶ個体、その中間の個体など非常に研究者泣かせのカエルです。

似た種類にニホンアマガエル・シュレーゲルアオガエルが挙がりますが、ニホンアマガエルとはその大きさの違い、そして一時期研究者も欺いたシュレーゲルアオガエルとは生息域と眼球の虹彩の赤みによる判別法が一般的に知られています。

日本固有種のカエルで、体長はシュレーゲルアオガエルより一回りほど小さいのですが、それでも実際に見るとかなり大型の部類のカエルです。

モリアオガエルを語る上で最も顕著な特徴は、その産卵形態でしょう。

モリアオガエルは両生綱無尾目アオガエル科アオガエル属に分類されており、このカエルの仲間は俗に言う「泡巣」を作りその内部に卵塊を産卵します。

同属のシュレーゲルアオガエルは水田や池の畔(あぜ)などの地面のくぼみに泡巣を作る地中産卵性のカエルです。

これとは正反対に、本種は池や湖畔、湿地帯にせり出した樹上に泡巣を作る樹上産卵性のカエルとして有名です(※例外的に佐渡ヶ島の個体群だけは地中産卵形式を取ることが知られています)

繁殖期は幅広く4月から7月にかけてです。先にも述べましたが地域個体差がかなり激しい種類なので、その生息地ごとの条件に合わせ細分化しているようです。

この時期になるとオス個体は樹上で鳴嚢(鳴き袋)を震わせて鳴き声を出し、メスを待ちます。

メスがやってくると産卵受精が行われ、更に白い粘液を分泌しペアで泡状になるまで後脚でかき回します。

産卵の際には、一匹のメスにオスが複数匹群がることがほとんどです。

直径10~15mmほどの泡の塊内には300~800もの卵塊があり、その内部では複数のオスの精子が未受精卵を巡り激しい競争を行います。

しばらく経つと泡の表面はやや黄色がかり硬化し始めます。これは受精卵の生育に必要な水分と、外敵から卵塊を保護するためと言われています。

約一週間でオタマジャクシが泡内部で孵化し、ジッと雨が降るのを待ちます。雨により徐々に硬化した泡が溶けだすと、オタマジャクシもまた共に直下の水中に落ち込むという訳です。

産卵直後のオタマジャクシは腹部に黄色のヨークサックを持ち、3日ほどは水底で身を潜めます。その後は藻類や動物の死骸などを削り取る様に食べ成長していくという塩梅です。

この様にその産卵形態の特異さ・鉄壁に見える卵塊保護のため勘違いされがちなのですが、本種は生物ピラミッドで見ればかなり下位の存在です。

成体の天敵は代表的なヤマカガシ・シマヘビなどの蛇の他に、モズなどの鳥類・ホンドタヌキやニホンイタチなどの哺乳類など多岐に渡ります。

また孵化したオタマジャクシも、すぐ真下の水中にはアカハライモリが待ち構えていることが多く、その大半が餌となってしまいます。

特にモリアオガエルがいるような山間部の池や湿地帯などは水生生物の宝庫であり、タガメやタイコウチ・ゲンゴロウ・ヤゴなどの水生昆虫・魚類・アカハライモリなどが非常に豊富に生息しており、そのほとんどが彼らの餌となってしまいます。無事成体になれるのは、無数のオタマジャクシの中でもごく僅かです。

オタマジャクシの成長スピードは早く、瞬く間に全長5cmまで成長し、仔ガエルとして上陸します。多くのカエルに共通しますが変体・上陸の際は尾部が胴体に吸収され、極端に小型化してしまいます。

本種の場合は実に1/2ほどの大きさ、2cm弱の仔ガエルとなり初めて陸に上がる訳です。

カエルの仲間はオタマジャクシの頃と上陸後ではその食性が180度変化します。

草食性主体だったものが完全な肉食性に切り替わり、土壌の微細な分解者・ごく小型の昆虫類などを主食とし、仔ガエルは育っていきます。

しばらくは水辺で生活しますが、本来はあまり水に依存しない樹上性のカエルです。山間部の森林に次第に移動し、運良く成体に育った個体がまたこのような繁殖サイクルを行うという訳です。

「モリアオガエル」の分布・生息地

日本固有種とお話ししましたが、実は元々の生息地は「本州並びに佐渡ヶ島」に限定されていました。

更には日本海側が主な分布・生息域だったようで、確証はありませんが神奈川県・千葉県で見られるモリアオガエルは人為的移入の疑いが古くから提唱されています。

分かりやすいのは離島である伊豆大島で、元々生息するはずのない本種が1970年代以降本島で見つかっています。

地域変異がかなり顕著であり、先に述べた唯一の離島個体群、佐渡ヶ島では、なぜか地中に泡巣を作る「地中産卵性」をとります。

カエルを始めとする両生類は移動分散能力が非常に乏しく、他の脊椎動物に比べ一カ所の生息地に定住する傾向があります。

幼生期はエラ呼吸であり水場に依存し、成体は肺呼吸・皮膚呼吸を主に行う両生類の特異性を考えると、特定の環境に依存するのも当然なのでしょう。

その生息地に合わせて体色の変化や、産卵形態が異なるといった例も実は珍しくはありません。

モリアオガエルは、北海道・沖縄・四国・九州における生息例は報告されていません。また本州でも茨城県のみ、なぜかその報告例がなく、分布としてはかなり局地的に集中しているという見解が一般的です。

このような野生生物は種の保存のみにこだわらず、住んでいる地域をまるごと保護する必要性があります。

「地域個体群の保全」と言い、生息地域周辺の個体の捕獲や別地域の同種の侵入を防がなければ「遺伝による交雑」が起こる可能性があるからです。

野生個体では余り聞きませんが、遺伝の多様性は必ずしも良い結果はもたらしません。

一例を挙げると遺伝学の分野には“致死性遺伝子”という専門用語があります。

この遺伝子を持つ生物はその発生の過程で必ず死に至り、成体まで生育することは不可能になります。

可能性は極めて低いのですが、生息地が異なる個体同士が交雑し、潜在的に染色体内に潜む、致死性遺伝子が発現する可能性は0ではないのです。

自然環境の変化で流入する分には構わないのですが、ここに人の手が加わることは避けなければなりません。

「モリアオガエル」が絶滅危惧種となった理由

モリアオガエルはその産卵形態から、必ず植物が覆い茂るような水場が必要となります。

水面までせり出すような、うっそうとした森の中の水たまり…その様な場所を想像してもらうと分かりやすいでしょう。

仮に人間と共存し得る環境があるとしても、里山の止水地や棚田、その様な環境に限定されます。

残念ながら近年、その様な環境は急速に減りつつあります。

主な理由は後継者不足などによって、山間部の水田地帯の放棄が2000年代に入り急速に進んでいること、そして人の手による山間部の急速な開発事業の影響です。

森林開発による木々の伐採や、宅地開発等が最も顕著な例として挙げられるでしょう。
また各種治水事業や、新たなダム増設事業などもそこに加わります。

モリアオガエルにとっては、その限られた繁殖環境が逆に仇となってしまった形です。

逆に、他の水生生物のような外来種、例えばブラックバスやブルーギル・アメリカザリガニやウシガエルなどによる“食害”についての情報は耳にしません。

外来種の被害からは辛うじて逃れている様です。

農薬散布などによる個体数減少の可能性も低いでしょう。全くないとは言い切れませんが、オタマジャクシやカエルのような被捕食者は、農薬などの生物濃縮によるダメージを与える側にはなりますが、個体そのもののダメージは少ない傾向があります。

そして元々、山間部などの農村地帯では農薬を使わない傾向があるので、そもそも論として、無縁なのかもしれません。

「モリアオガエル」の保護の取り組み

世界的に見ても樹上に卵塊を産むという産卵形態はかなり特異な例として知られています。

ですが国際的評価はIUCN(国際自然保護連合)において2004年からレッドリスト入りしてはいますが「軽度懸念(LC)」の評価であり、個体数は安定傾向にあると定義されています。

国内の環境省レッドリストにはそもそも含まれてさえいません。

ですが、この2点から見て「絶滅の危機はない」と判断するのは尚早です。

なぜなら各地方自治体ごとの天然記念物として、生息地を含めた指定がなされている地域が多々あるからです。

最も危険視をしている自治体が奈良県です。奈良県は独自の条例で「絶滅寸前(絶滅危惧種Ⅰ類)」のレッドリストに位置づけています。

その他の都道府県では、千葉県・兵庫県・岡山県が「絶滅危惧Ⅱ類」としており、地域個体群として予断を許さない状況です。

保護施策としては本種そのものではありませんが、福島県の平伏沼・岩手県の大場沼の2カ所が「モリアオガエルの繁殖地」として国の天然記念物の指定を受けています。

県指定天然記念物では全国で9カ所、市指定の天然記念物として9カ所、町指定天然記念物として4カ所が指定されており、この場所での採取はもちろん、個体に触れる事さえ条例で禁止されています。

ですが法・施策以外での保全事業は、活発には行われていません。

それどころか国内外来種として、現存の生態系を脅かす存在として駆除の対象となっている自治体もあり、かなり本種に関しての見解は混乱していると言えるでしょう。

国単位での保護政策は行われていないので、普通にペットショップでも取り扱われるほどです。

本種モリアオガエルはその繁殖形態から考えると、人工繁殖にはかなりの困難さが伺えます。一度減少しそこから立て直すのが非常に難しい種類の生き物と推測されます。

今後、その個体数が減少傾向を辿るようであれば、早急な国単位での保護施策が望まれます。