絶滅危惧種 PR

【ツキノワグマとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

日本国内には2種類のクマが生息することをご存知でしょうか。

1つは北海道のみに生息する「ヒグマ」であり、もう1種類は今回の主役である「ツキノワグマ」です。

足柄山で金太郎が相撲を取った相手として、幼い頃から童話を通じその存在を知った方も多いと思います。

国内に生息するツキノワグマは正式名称を「ニホンツキノワグマ」といい、世界各地に生息するツキノワグマの7亜種のうちの1種となります。ニホンツキノワグマは本州・四国にのみ分布する日本の固有亜種であり、残念ながら九州地方では既に絶滅したと見なされています。

今回はこの国内固有亜種「(ニホン)ツキノワグマ」について皆さんにお話ししていこうと思います。

ニホンオオカミ」や「ニホンカワウソ」など日本固有の肉食哺乳類が軒並み完全絶滅していく中、この「ツキノワグマ」はなぜ今日まで生き残ることができたのでしょうか。

「ツキノワグマ」とは

日本で最も恐れられている野生肉食獣…それが「ツキノワグマ」と言っても過言ではないでしょう。

ただ意外なことに、ツキノワグマの食性は肉食メインというより、本来は草食性よりの雑食性ということはご存知でしょうか。

クマの仲間は約2000万年も前に、ライオンや虎といったネコ科の動物やオオカミやハイエナといったイヌ科の動物も多く含む完全肉食性の食肉目の血統から、クマ科の動物として分化しました。

日本に生きる野生動物としてこの「雑食性」をはるか昔に取り入れたことが、ニホンオオカミやニホンカワウソとの明暗を分けたと言えます。

既に完全絶滅したこの2種は、草食傾向を一切持たない“完全肉食性”の系統群であり、必然的に餌となる小型哺乳類や魚類などが減少すると、その数が減少し絶滅までに追い込まれます。

更にニホンオオカミなどは家畜や人間そのものを、飢えのあまり襲うようになり「害獣」として惜しくも駆逐されてしまったのです。

ところがツキノワグマの主食は果実や木の若芽・新芽であり、タンパク質は昆虫や魚類、時にはスカベンジャーの様に行き倒れとなったシカなどの死骸を食べる程度で、積極的に他の哺乳類を襲う動物ではありません。

この食性の差が完全絶滅と生き残りの差の命運を分けました。

もちろん国内でも生息地域により食性の差は生じ、時にはニホンカモシカやニホンジカ・鳥類、さらには人を襲った例もあるので安全な動物とは言い難いのですが、その基本的な食生活については、ツキノワグマはかなりの誤解を受けています。

国内で多くの方が犠牲になったクマによる獣害事件は数多くありますが、そのほぼ全てが北海道における「ヒグマ」の仕業です。

ヒグマの食性は寒冷地に生息することが関係するのか(※亜寒帯である北海道では木々が少なく、冬眠前の栄養素である脂肪を十分に摂取する必要があります)ほぼ完全な肉食性であり、前述の獣害事件同様に人間を含めた大型哺乳類を主食としています。

このヒグマとツキノワグマをドウイツト見做し混同する方が多いのも、人間がツキノワグマの出没を恐れる一つの要因でしょう。

ツキノワグマの成獣は平均全長が110~130cmであり、オスの体重は約80kg、メスは50kg程度とオス個体の方が大きくなります。

参考までにヒグマのオスの成獣は平均全長が2.0~2.8m、体重は250~500kgであり、比較的小柄なメス個体でさえ全長1.8~2.0m、体重も100~300kgまでに達します。

その食性やサイズを考慮すると、ヒグマ・ツキノワグマと人間との共存は、全くの別物と断言できます。

ツキノワグマは戦後の高度経済成長期による道路開発や宅地造成により、元来同一であった生息域の森林が幾重にも人の手で分断されてしまいました。

特に顕著だったのが西日本の個体群であり、猛スピードで行われる開発事業により、九州地方のツキノワグマの個体群は1941年の捕獲記録…そして公的記録に記された1957年の「幼獣の死骸の発見報告」以降は目撃例が途絶え、完全絶滅したと見なされています。

過去に一度1980年代に捕獲例があったそうですが、頭蓋の形やミトコンドリアDNA解析により本州に生息していた個体群ということが判明しています。おそらく人為的移入が何かしらの形で行われたのでしょう。

後述しますが、四国地方や中国地方の個体群も絶滅の危機に瀕しています。

局所的な個体数増加は2000年代に於いても複数回見られましたが、総数で考えるとツキノワグマの減少傾向は極めて深刻と言えます。この点については詳細部分を後述させて頂きます。

古来よりツキノワグマの本来の生息地は、ブナやミズナラに代表されるブナ科の落葉広葉樹林(紀伊半島の個体群のみ照葉樹林)でした。

その様な場所で、冒頭で述べたように植物食主体の食事をし、春先には2頭の子供を産み落とし2~3年間子供が巣立つまで、母子で仲睦まじく暮らします。

では次項では現在のツキノワグマの生息地の現状について、詳しくお伝えしましょう。

「ツキノワグマ」の分布・生息地

ツキノワグマの生息地は一般的には「本州以南」と図鑑などに記されています。

ですが戦後この国が迎えた高度経済成長期の煽りを受け、本来連なっていたはずの森林等が伐採され、生息地が数カ所に分断されてしまいます。

ツキノワグマの分布・生息地は本州北部から南下し「下北半島個体群」「関東山地個体群」「紀伊半島個体群」「中国地方東部・西武個体群」「四国個体群」というように極めて局所的になったのです。

日本国内に生息するツキノワグマの絶対数は、現状10,000頭前後とされています。

九州地方の個体群の完全絶滅についてはすでにお話ししましたが、理由は不明ですが何故か南方の個体群から生息数が減りつつある傾向があります。

全ての地域個体群が環境省レッドリストにより『絶滅の恐れのある個体群』に指定されていますが、四国個体群の減少はかなりの危機的状況で1990年代の時点で徳島県に12頭以上、高知県に10頭前後しか確認されていません。

その他の地域では100頭以上は辛うじて生き残っているのですが、全国における分布・生息地の分断が日本の急成長が終わった昨今において、ツキノワグマの窮状を招いていると言えるでしょう。

この様に全国各地の山間部等に生息していると漠然と考えられているツキノワグマですが、その生息地は「陸の孤島」と言っていいほど限られた場所になるのです。

「ツキノワグマ」が絶滅危惧種となった理由

ツキノワグマが絶滅危惧に瀕している状況の説明は少しややこしく、地域群により個体数に大きな隔たりがあります。

まず本州地域群の個体数はかなり微々たるものですが、増加傾向があるとの報告もあります。
最も野生絶滅に近しいのが四国に生息するツキノワグマです。

全国の個体数は2012年現在で約10000匹程度であり、その減少の主要因は第一に『人間の開発行為』そのものにあります。

本来ブナやコナラ・クリの木が生い茂る食料が豊富な広葉樹の森林に生息していたツキノワグマは、1960年代ごろからの林業…即ちスギやヒノキ等の植林事業により、その安息地を失ってしまいます。

また、これらの植林地帯が障壁となり、本来出会うはずのツキノワグマ自身の接触も急激に減少します。

そのため雌雄が出会う機会も減少し、繁殖さえままならない状況になったのです。

1970年代に入ると林業や農業の害獣と見なされ、積極的な狩猟が起こります。

狩猟の副次的な産物として、その毛皮やクマの肝などが高値で売れるようになり、クマ狩りは更に拍車がかかる事になります。

1986年には特例を除きツキノワグマの狩猟は全面禁止となりましたが、本州…特に島根県などでは急激な増加が見られ、2000年代には大規模な駆除さえ行われました。

本州とは裏腹に四国のツキノワグマはその生息数が僅か数十頭と推測されており、野生絶滅が秒読みの段階であります。

理由としては戦後間もなくの積極的な林業事業の推進に起因しています。

元々本州ほど生息数は多くはなかったのですが、戦後間まもなく物資が乏しい時期であり、食いつなぐために本来のツキノワグマの生息地は猛スピードで林業地帯へと改変されていきます。

食いつなぐための餌が減ることで、必然的に四国のツキノワグマは絶滅の危機に瀕しているのです。

反対に逆転現象として本州のツキノワグマの総数は増加傾向にあります。

一部では数十頭しか存在せず、同じ国でも急激な増加により駆除の対象となってしまうという、実に難しい問題を抱えているのが日本のツキノワグマなのです。

「ツキノワグマ」の保護の取り組み

ツキノワグマの先進保護に取り組んでいる一番の地域は四国地方でしょう。

四国では「四国自然史科学研究センター」ならびに「WWFジャパン」などの機関により積極的な追跡調査が行われています。

既に林業は全国的に衰退し元の環境が戻ったにもかかわらず、総個体数が一向に増加傾向を見せないからです。

2012年には3頭の個体にGPSを取り付け、好適環境を探る追跡調査が行われています。

その結果、放棄された人工林などには一切定住せず、標高900~1500mの地点に集中し生息していることが明らかになりました。

四国のツキノワグマ保護は、放棄林をブナやドングリの実が生い茂る本来の生息林に置き換える作業が地道に行われています。

本州では人里に下りてきたツキノワグマに敢えて電流などを流し、麓の恐ろしさを刷り込む作業が積極的に行われています。

また四国と比較し元々生息していた環境も多く残っており、保護団体によるブナやコナラの木の植林作業も行われています。

生息環境や突発的な餌の増加により、本州地方の個体群は急激に増加する傾向もあるので、この現象を上手く少数生息地などに取り入れる試みなども試験的にですが行われています。

まとめ

この様に説明することすらかなり難しい現状が、入り組んだ島国である日本の地理的事情や林業の繁栄・衰退により、ツキノワグマの身に降りかかっています。

要の環境省も10000頭前後に減ったツキノワグマに対して、レッドリストの認定対象にすら入れておらず、それどころか急増した際は特例で狩猟許可が出てしまうほどです。

酷く矛盾しており人間により振り回され続けているツキノワグマですが、単なる猛獣という誤った認識が薄れ、日本が国際的にも誇ることができる貴重な動物であることを周知されることを願うばかりです。