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【シロナガスクジラとは】生息地や絶滅危惧に至った原因・保護の取り組みについてのまとめ

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地球という恒星が奇跡的に誕生し約40億年経ちます。その長い歴史上、様々な巨大生物が誕生しては絶滅して来ました。

皆さん良くご存知の巨大爬虫類の「恐竜」、約3億年前に存在した70cmの巨大トンボ「メガネウラ」2億5千万年前の三畳紀に生息した体長4mになる最大両生類「メトポサウルス」…各時代の巨大生物群を紹介すると枚挙に暇がありません。

そんな中、地球史上最大の哺乳類が今現在もなお生息し続けていることをご存知でしょうか?

その生物が今回紹介する『シロナガスクジラ』です。

約30mもの巨体を現代においても維持し、現存する動物や既に絶滅してしまった動物群の中でも最も大きな生物となります。

19世紀末まで地球のほぼ全海域・海洋に生息していた本種。そんなシロナガスクジラですが、1966年に国際捕鯨委員会IWCがその捕鯨を完全禁止するまで、捕鯨漁業により絶滅の一歩手前まで追いやられていた過去を持ちます。

その後シロナガスクジラは回復の兆しを見せたのか?それともその数を減らし絶滅しつつあるのか?今回はその保護活動に焦点を当て、彼らの置かれている現状についてお話ししていきます。

「シロナガスクジラ」とは

まずはシロナガスクジラの基本的な情報や、その生態について書き記していきます。

シロナガスクジラは和名では“白長須鯨”と言い、学名は“Balaenoptera musculus”と表記されます。Balaenopteraは種小名のナガスクジラを表し、musculusはラテン語で筋肉の意味を持ちます。直訳すると「筋肉質なナガスクジラ?」とも取れますが、そもそも学名はかなり曖昧につけられることが多いので“Balaenoptera musculus”=シロナガスクジラ”と理解した方が良いでしょう。

偶蹄目/鯨偶蹄目ナガスクジラ科ナガスクジラ属に分類されるシロナガスクジラは、記録上の最大確認個体が何と全長29.9m、体重に至っては199tに達します。公式記録ではありませんが34mの全長を持つ個体も確認されており、平均的な体重は200tを超えるというのが一般的な見解です。

その呼吸も非常にダイナミックであり、頭頂部にある噴気孔から息を吐くと9~10mまで海水柱が吹き上がるほどです。

ところがそんな巨体にも関わらず主食は浮遊生物プランクトン、小さなエビの一種であるオキアミのみです。口腔内には約400本の櫛状の剛毛を持ち、海水ごとオキアミを吸い込みろ過するという捕食形態を持ちます。

成体のシロナガスクジラは、実に一日当たりのオキアミの消費量が5~10tと言われています。一口で飲み込めることのできるオキアミの量は最大400~500kgであり、その巨体の維持に如何なく捕食量を発揮しています。

そんなシロナガスクジラですが、やはり長寿の部類に入り寿命は相当のものです。平均80~120年ほどの寿命を持ちますが、最長寿個体は実に200年にも及ぶと推測されています。これだけの寿命を持つ動物、特に哺乳類の中では極めて稀で、後にも先にもシロナガスクジラに続く長寿種は例を見ません。

巨大生物はその繁殖に非常に時間を要する傾向を持ち、シロナガスクジラもその例外に外れません。

交尾後の妊娠期間は約1年弱とかなりの長さであり、しかも一頭の子クジラしか妊娠しません。子クジラは産み出された時点で既に体長7m前後・2~3tの重量を持ち、一歳になるまでの期間は実に毎日90~100kgも体重が増加し続けます。

この子育てもかなり群を抜いており、赤ん坊は毎日300~700Lもの量の母乳を授乳します。更に詳しく見てみると赤ん坊の一日の成長具合は、体重が一時間ごとに4kg増加し、体長は日ごとに4cmほどと急激な成長を遂げるのです。

こうして半年から1年間、母親からの授乳を受けすくすくと育ち、その後は乳離れしオキアミ食に切り替わります。

また哺乳類だけでなく全動物の中で最大の鳴き声をあげ、その声は極めて低い低周波数であり、あたかもうなり声のような様相です。周波数は180ホーン(概ね180db)であり「日本騒音調査」の公式HPによると“聴覚機能に異常をきたす目安”の最高値が“ジャンボジェット機近くのエンジン音120db”とされていることから、鳴き声のスケールが窺い知れるでしょう。

基本的に単独行動やごく少数の群れで生活をするシロナガスクジラですが、繁殖期などにはこの様な鳴き声を取るとされています。ちなみに150~200km離れた別個体とコンタクトを取る事さえ可能です。

これほどの巨体を持つシロナガスクジラですが、唯一の天敵は海のギャングこと「シャチ」、そして「人間そのもの」です。

自然界における唯一の天敵シャチは、集団で小型のシロナガスクジラを襲い捕食することがあります。ただ成長しきったシロナガスクジラはかなり泳ぎが早く、その巨体もあいまってほぼ襲われることはありません。捕食者シャチもかなり賢く、ハンティングするシロナガスクジラの大きさをしっかりと吟味することが知られています。

そして最も畏怖すべき天敵が私たち人間となります。シロナガスクジラの猟は過去19世紀20世紀初頭まで盛んに行われており、後に記述しますが日本やアジア地域の海域からはシロナガスクジラがほぼ絶滅したという悲しい経緯があります。

1963年の調査では、シロナガスクジラの総数は約2500~3000頭とされています。もちろん広い海域に点在するので把握が非常に難しいのですが、一歩一歩絶滅の危機に向かっているか?それとも回復の兆しを見せているのか?その詳細をお話ししていきます。

「シロナガスクジラ」の分布・生息地

シロナガスクジラはその巨体から、大部分が外洋域に生息します。例外的にアメリカのカリフォルニア湾には何故か、沿岸部に生息する個体が確認できます。

基本的には地球上全ての海域を行動範囲としますが、日本やアジア近海の“日本海”“東シナ海”“オホーツク海”の個体群は絶滅してしまい、地中海・ベーリング海にはそもそも分布していません。

それ以外の海域を回遊する性質があり、夏季に入るとオキアミを求め北極海・南極海の間近まで移動することが明らかになっています。反対に冬季は熱帯・亜熱帯の海洋域に移動し、そこで繁殖行為を行います。

地中海・ベーリング海など「付属海」と呼ばれる海域には滅多に入らず、繁殖・子育て期以外はほぼ単独行動一辺倒です。

また生息する海域ごとに個体差が生じ、これらは全て4種の亜種群として分類づけられています。

最も近年である1966年に新たに亜種に位置づけられた個体群が『ピグミーシロナガスクジラ』です。主に南半球の赤道付近に常駐し回遊を行います。ピグミーを冠する名の通り、シロナガスクジラの亜種の中で最も小型な個体になります。尾がやや短い傾向を持ちますが、最小亜種とは言え、その最大全長は約20mにも達します。

またそれより以前の1859年にインド洋を主生息地とする“Balaenoptera musculus indica Blyth(和名なし)”が確認されていますが、ピグミーシロナガスクジラとの明確な差がなく、分類上やや混乱をきたしています。

南半球のピグミーシロナガスと相対するように北半球を中心に回遊を行う個体が『キタシロナガスクジラ』です。北半球広汎を回遊し北欧三国・グリーンランド付近でもその姿が観測されています。

そして最も大きくなる最大亜種が1871年に定義づけられた『ミナミシロナガスクジラ』です。かなり活動範囲が広く、おおよそ南緯70°付近の海域を頻繁に回遊することが知られています。

この様に分布・生息地で大まかな4種の亜種に分けられるのですが、便宜上、全ての亜種をひっくるめて『シロナガスクジラ』と定義されています。

「シロナガスクジラ」が絶滅危惧種となった理由

2022年現在、幸いにもシロナガスクジラは緩やかな増加の道をたどっています。

過去著しく個体数を減らした原因は19世紀から始まった捕鯨漁業が要因です。紀元前においても捕鯨が行われていた証拠であるクジラの遺骸が発掘されていますが、その個体数を減らすまでには到底及びません。

最大の要因は『近代捕鯨』です。記録によると1864年北欧三国のノルウェーで本格的な近代捕鯨が始まった歴史があります。更に1920年に捕鯨母船(※捕鯨漁業の要となる船を指し、クジラの肉や油、更にはその巨体を甲板まで引き上げる能力も有している主要母船です)が開発され、より効率化された捕鯨事業は大型のシロナガスクジラでさえ容易に仕留めることができたのです。

ここからは少しデリケートな話になりますが、反捕鯨先進国であるアメリカが完全に捕鯨を禁止したのは1940年です。IWC(国際捕鯨委員会)により何かとやり玉に挙げられる日本ですが、島国という立地上海洋資源に依存するしかありません。

既にIWCを脱退したのは記憶に新しいことですが、実はクジラ肉を食す文化は他国にはなく、折角のシロナガスクジラを捕獲しても鯨油を取り後は廃棄するのみでした。

技術の進歩と鯨油のみ求める偏った漁獲が、シロナガスクジラ減少の一因という説もあります。

他にも人為的な脅威(海洋汚染・船舶の衝突・温暖化等の気候変動)と自然的な脅威(シャチの捕食)の両方に脅かされ減少したとも言われますが、最大の要因はやはり過剰な捕鯨に尽きるのです。

「シロナガスクジラ」の保護の取り組み

シロナガスクジラの減少に歯止めをかけるため、1963年にはIWC(国際捕鯨委員会)により、シロナガスクジラの捕鯨は世界的に全面禁止となりました。

この時点で総個体数は2500~3000頭と急激な減少を見せています。そもそも19世紀初頭には20~30万頭ものシロナガスクジラが生息していたからです。

またシロナガスクジラは正式に絶滅危惧種法においてで絶滅危惧種にカテゴライズされる運びとなり、更には国際法である『海洋哺乳類保護法(Marine Mammal Protection Act)』上でも『枯渇』『戦略的』に位置づけられました。

国際自然保護連合(IUCN)においても絶滅危惧を表す「EN:Endangered」に指定され、更にはサイテスⅠ類に記載されるという、徹底的な国際保護施策が取られています。

世界一丸となった保護活動の結果、1964年には数千頭のみだった総個体数は最大推測値16000頭までの回復の兆しを見せています。

ただ近年の懸念材料として真っ先に挙がるのが「地球温暖化」です。極地付近まで回遊するシロナガスクジラにとって、氷の溶解による海面上昇…そして海水温上昇による、主食オキアミの変化の見通し…これらが今後彼らにとって影響を及ぼさないとは言い切れません。

希望的観測だけでなく、SDGsを始めとしたこれからの人間側の取り組みがシロナガスクジラの今後を左右するのではないでしょうか?