絶滅危惧種 PR

【ゲンゴロウ】特徴や生息地・絶滅危惧種となった原因まとめ!保護の取り組みも

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

水中昆虫、その名の通り水中に居住の重きを置く昆虫のことで、タガメやミズカマキリ、ミズスマシ、アメンボ、ゲンゴロウと様々な種類が存在しています。

しかし、どの種類も住処となる田園地帯の消失、農薬などの影響で大幅に数を減らしています。人間活動の犠牲となっていく水生昆虫、皆さんは本物の水生昆虫を見たことがあるでしょうか?

田舎でも見つけることができればラッキーというレベルにまで数を減らしてしまった水生昆虫。その中から今回はゲンゴロウについて紹介していきます。

「ゲンゴロウ」とは

ゲンゴロウは水田や池、小川などに生息する甲虫の一種です。

様々な種類が存在し、わずか数ミリ程度しかない種類から4センチほどにまで成長するものまでその大きさや形態は多種多様です。昆虫類にしては珍しく、海水域や地下水にも生息するなどその生息地もかなり幅広いものになっております。

今回はその中でも代表種である標準和名ゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)についてお話させていただきます。

ゲンゴロウは甲虫目ゲンゴロウ科ゲンゴロウ亜目ゲンゴロウ属に属する生物で、水棲の甲虫では最大種です。大きさは4センチほどで、見た目は「泳ぐコガネムシ」とでも言ったところでしょうか。

水生昆虫であるため、後ろ足は泳ぐために変化したものになっており、黄褐色の毛が密に生えています。これで後ろ足がオール状になっているため、この後ろ足を前後に動かすことでスピーディーに遊泳することができます。

全身は流線型になっており、水の抵抗を極力抑えるような形状になっています。背面から見た体色は暗褐色から緑色に見えるものになっており、美しい体色をしているのが特徴です。

ゲンゴロウはその他昆虫と同様に空気呼吸を行います。しかし、ゲンゴロウは長時間の潜水ができ、もちろん潜水中は空気呼吸を行いません。長時間の潜水にはゲンゴロウの羽部分に仕組みがあり、腹部と翅の間に空気をスキューバダイビングのボンベにように溜め込むことで潜水を可能にしています。

そのため、水槽などでゲンゴロウを観察していると空気を溜め込んでいる部分が水を弾いているように見えます。

前足は2本の鋭い爪を持っており、この爪を使って獲物を捕食します。

ゲンゴロウは肉食の水生昆虫であり、持ち前の遊泳力で魚や両生類、同じ水生昆虫まで襲って食べてしまいます。田んぼや小川では上位に君臨する捕食者であることは間違いないです。

ゲンゴロウは強力な嗅覚を持っているため、水槽に血液を一滴垂らしただけでも活発に泳ぎ回るほどには貪欲です。この嗅覚は弱った生き物を探す際に役立ち、、鋭い嗅覚と高い遊泳力を武器に餌にありつきます。

その嗅覚故に、煮干しなどには好んで抱きついてくるため、ゲンゴロウが多く存在した時代には煮干しを使っての「ゲンゴロウ釣り」が行われたと言いますが、おそらく今から半世紀近く前のことですから、もはや伝承上の存在でしょう。

ゲンゴロウには飛行能力もあり、夜間は活発に飛び回り、水銀灯などにも飛来します。こういった飛行にはゲンゴロウが新しい住処を求めて移動しているという説が濃厚であり、夏には田んぼなどは干上がり、餌となるオタマジャクシたちもカエルになって出ていってしまうことから餌や水の豊富な場所を求めて住処を点々とします。

ゲンゴロウは昆虫であるため、幼虫の時期も存在します。春に繁殖期を迎えたゲンゴロウは水生植物の茎に傷をつけてそこに卵を産み付けます。

孵化した幼虫も水中で過ごしますが、成虫とは大きく異なる見た目をしており、芋虫のような体とムカデのような顎をもった見るからに肉食といった雰囲気を出したグロテスクな生物になります。そのため別名は「田ムカデ」「水ムカデ」と呼ばれたりします。

幼虫はさらに肉食であり、大きな顎でメダカやオタマジャクシなど自分よりも大きな生物に噛み付いては体液を吸います。

大きな顎は対象にガッチリと食い込んで離すことはありません。人間でも噛みつかれれば結構痛みを感じるくらいには噛みつく力は強いです。噛みつくと消化液を流し込むことで獲物を中から溶かしていきます。こうして獲物をじわじわと弱らせて、最後には皮になるまで中身を吸い取るエイリアンのような生き物です。

幼虫期間はおよそ1ヶ月半程度であり、十分に成長した幼虫は近くの土手に穴をほってサナギになり、夏頃に成虫になります。

ゲンゴロウの寿命は長く、栄養状態の良いものは3年も生きたという記録があります。成虫になったゲンゴロウは成虫の状態で冬眠、次の春に繁殖をすることができます。おそらくは1匹のゲンゴロウは生涯で2回ほどは繁殖の機会があるということになります。

ちなみにゲンゴロウは漢字では「源五郎」と書くのですが、由来としては「玄甲」の読み下しが「ゲンゴロウ」であったという説と、「でんぐりがえろ」(旋回しながら泳ぐ様から)が崩れて「ゲンゴロウ」になったという説があります。

「ゲンゴロウ」の分布・生息地

ゲンゴロウは北海道から九州まで、日本各地に生息する昆虫です。田んぼや池、沼、湖と淡水の中でも止水域を好む生物で基本的に流れの激しいところにはいないようです。

水生の植物が自生する場所に多く生息しており、自らが休むための足場にしたり、卵を産み付けるための産卵床にします。

「ゲンゴロウ」が絶滅危惧種となった理由

ゲンゴロウは現在、絶滅危惧種Ⅱ類に分類される生物で近い将来絶滅の危機が訪れるとされています。筆者はかなり昆虫採集や魚類採集をする方ですが、ナミゲンゴロウを野生で見たことはありません。体感的にはⅡ類より上に感じます。

そんな話はさておき、ゲンゴロウが数を減らした最大の理由は河川や小川、水路の改修でしょう。

水害の防止や農業用水の安定的な供給のため、多くの用水路はコンクリートで固められてしまいました。そういった水路は流れが早く、水生植物も自生しにくいです。ゲンゴロウの生息には適さない環境でしょう。

さらにはコンクリートであることから成長した幼虫も上陸ができず、土手に穴をほって蛹になることができません。

近年の河川の改修ではできるだけ自然に影響は与えないようにするために両生類などが上がるためのスロープや、魚たちが住める流れの緩やかなゾーンを作るなど、様々な取り組みがなされていますが、ゲンゴロウの場合は陸地に土がないと成虫になれないため現在の開発の影響をもろに受けてしまった生物のⅠつです。

改修された水路では流れな緩やかな場所でも植物が生えにくい傾向があり、基本的には生えないものと思ってもらって構いません。改修された河川は砂や泥が溜まりにくいということもあり、植物が生えないので、ゲンゴロウが住んでもそもそも卵すら産めないのです。

また外来種による影響もバカにはできません。ブラックバスやアメリカザリガニ、ウシガエルなどが例に挙げられます。言わずもがな、ブラックバス、ウシガエルは口に入るものであればなんでも食べてしまう圧倒的な捕食者です。

ゲンゴロウは逃げるすべも、対抗するすべも持ち合わせていません。全国的にもこれら外来種による食害は深刻であり、池や沼などの閉鎖的環境に一度入り込めばすさまじい捕食圧と繁殖力でわずか数年で環境を大きく塗り替えてしまいます。

ゲンゴロウは餌のⅠつでしかありませんが、外来種は無差別になんでも食べてしまうのでゲンゴロウだけをターゲットにしているわけではなくともその生息数には大きく影響を与えています。

アメリカザリガニはゲンゴロウを捕食するわけではありません。しかし、植物食の強いアメリカザリガニはゲンゴロウの生活環には不可欠である植物を芽のうちにあのハサミで切ってしまい、自身の食料にしてしまいます。

アメリカザリガニの繁殖した環境には植物は少なく、生息する生物も少ない傾向にあります。こういった外来種たちの影響もゲンゴロウの減少に拍車をかけています。

ゲンゴロウの主なすみかになっている田んぼでも、農薬など化学成分を含んだものの散布により汚染が多少なりとも存在します。人間には害のない量でも昆虫にとっては致死量ですから農薬によって命を落とす、または住処を追いやられるゲンゴロウも多く存在します。

ゲンゴロウはこういった人間活動の影響を大きく受けた絶滅危惧種の1つなのです。

「ゲンゴロウ」の保護の取り組み

ゲンゴロウは現在、絶滅危惧種Ⅱ類であることや全国的にも幅広く生息していることから目立った保護活動は行われていないようです。

ゲンゴロウを種として保存するというよりはゲンゴロウを含めた水生昆虫もしっかりと増えていけるような自然開発、そういった意味で自然全体を保護する形ではゲンゴロウの住処も守られています。

人為的に作られた自然空間であるビオトープでは様々な水生昆虫たちがやってきます。水の流れもなく、飛来した昆虫たちが集まるビオトープでは人為的に作られた環境ながら彼らが住むには適した環境になっているのです。

そういった場所が増えていること、これは一種の保存と言っても良いでしょう。

ゲンゴロウの中でも特に絶滅の危機がある5種類は現在、環境省の定めた種の保全法に基づき現在は許可無しでの捕獲や販売は禁止されています。

これらのゲンゴロウは生息地が限られてるものがほとんどであり、生息地となる場所の外来種駆除や、環境の整備などより生息しやすい環境を作ることで現在は個体数を維持しています。

水族館や昆虫園などで増やすための研究も進んでおり、育てた生体を放流するなどの活動も行われています。

我々が個人でできることは外来種を放流しない、排水を多く流さない、家庭菜園でも除草剤や農薬の乱用は控えると言った小さなことでもゲンゴロウなどの小さな生物の保存には重要なことです。

私達は大小様々な生物の積み重ねの上に立っています。少しでもこういった生物のためにできることをやってみませんか。