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【アムールヒョウ】特徴や生息地・絶滅危惧種に至った経緯を紹介

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「アムールヒョウってヒョウの仲間?アムールって何のこと?」
「アムールヒョウは絶滅危惧種なの?」
「ヒョウは日本でも見られる?」

ヒョウは日本の野生生物ではありませんが、「ヒョウ柄」というと模様などを表す時に使われ馴染みぶかい言葉です。

アムールヒョウはロシア極東部アムール川周辺に分布するヒョウの1亜種で、生息数が非常に少なく地球上で最も希少な大型ネコ科の動物とされています。

IUCN(国際自然保護連合)レッドリストでの掲載ランクCR(Critucally Endagered:近絶滅)は、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いという意味です。

最後まで読んでいただくと、アムールヒョウの特徴・生態・生息地・保護活動について広く知ることができますので、ぜひご覧ください。

「アムールヒョウ」とは

アムールヒョウはヒョウの亜種で、英語ではAmur Leopardと表記されます。

ヒョウは食肉目ネコ科ヒョウ属に分類され、アジアからアラビア半島・アフリカまで広く分布する肉食獣です。

ヒョウの亜種の分類については議論のある中、IUCN(国際自然保護連合)では生息する地域等によって次の9亜種としています。

  • アフリカヒョウ (サハラ砂漠より南のアフリカ)
  • インドヒョウ (インド亜大陸)
  • ジャワヒョウ (ジャワ島)
  • アラビアヒョウ (アラビア半島)
  • アムールヒョウ (ロシア極東部や中国北東部など)
  • キタシナヒョウ (中国北部)
  • ペルシャヒョウ (コーカサス地方やトルクメニスタン、イラン北部など)
  • インドシナヒョウ (東南アジア)
  • スリランカヒョウ (スリランカ)

アムールヒョウはヒョウの中で最も北に分布する亜種なのです。

「アムールヒョウ」の特徴

アムールヒョウは最大級の大きさのヒョウで、体長0.9〜1.9m・体重30〜70kg、大きい雄だと体重80kg以上です。

アムールヒョウは寒さを防ぐために長くて厚い体毛をもち、夏毛は2.5cm・冬毛は7cmにもなります。

体色は夏は赤みがかった黄色、冬は明るい黄白色で全身に梅花状の黒い斑紋があり、いわゆる「ヒョウ柄」です。

アムールヒョウのヒョウ柄は他の亜種より大きくユキヒョウに似ていますが、人間の指紋のように一頭ごとに異なるので個体識別に利用されます。

ヒョウ柄は茂みの中や樹の上では木の葉に紛れ、冬の体色が他の亜種よりも白っぽいことから雪の中でも見つかりにくく、カモフラージュに適した外見です。

このように、アムールヒョウは寒い地域の雪深い森林地帯での生息に適応した特徴をもっています。

「アムールヒョウ」の暮らし

他のヒョウと同様、アムールヒョウも主に夜行性で単独で生活し、優れた視力と聴覚をもっています。

アムールヒョウの行動範囲は、年齢や雌雄の別・季節などによって大きく変わり50~300㎢といわれ、獲物の少ない地域で約100㎢とされています。

動きは敏捷で木登りが得意であり、樹の上にいると体はカモフラージュされて見分けられず、尻尾のわずかな動きだけが確認できるなどということもあります。

姿を隠しながら単独行動する野生のアムールヒョウを目視で確認するのは難しく、その生態や生息数を正確にとらえることは難しいのです。

「アムールヒョウ」の食性

アムールヒョウは他の亜種と同じく肉食性で、アカシカ・ニホンジカなどのシカ類やイノシシを主に餌とし、大きな獲物を得られない場合はウサギ・げっ歯類・魚なども食べます。
時にはヒマラヤグマの幼獣を襲うこともあるとのことです。

アムールヒョウの舌にはざらざらとした刺状の突起があり、獲物の肉を骨から剥ぎ取るのに役立ちます。

他の亜種に見られるのは、食べ残した獲物を木の上に引き上げておき、食べ尽くすまで何度でも獲物のところに戻って来るという習性です。

しかし、アムールヒョウは獲物を樹上には引き上げずに、地上で落ち葉などをかけて隠す習性があります。

アムールヒョウが生息する地域にはトラも生息しており、食性が似ているため競合が起こる可能性を否定できません。

「アムールヒョウ」の繁殖

アムールヒョウは3〜4歳で性成熟し、繁殖期は春から初夏です。

メスの妊娠期間は90〜105日で1度に1〜4頭を出産します。

産まれたばかりの子どもは体重約500gでまだ目は開かず非常に弱々しい状態なので、生後6〜8週間は母親は子どもにつきっきりです。

授乳期間は5〜6ヵ月程ですが、子どもが完全に独り立ちできるようになるまで2年ほどかかります。

母親は子どもと一緒に暮らす中で狩りの仕方や身の守り方、寒さの厳しい環境で生き延びる術を教えるのです。

「アムールヒョウ」の分布・生息地

アムールヒョウの分布域は、ロシア極東部シベリア地方と中国北部吉林省・黒竜江省の森林でロシア・中国・北朝鮮が接する国境周辺の地域に限られています。

森林破壊などにより生息域はかつての40分の1に縮小し、生息数も2000年には30頭まで減少して地球上で最も希少な大型ネコ科動物といわれるほどでした。

2001年以降、保護対策の影響でアムールヒョウの生息域は徐々に広がり確認数も増え、最も危機的な状況は脱したようです。

しかし、ロシア・中国・北朝鮮が接する地域が生息地であるため、国境を越えた保護対策と協力が喫緊の課題となっています。

「アムールヒョウ」の生息地

アムールヒョウの生息地は、針葉樹と広葉樹が織り交ざる豊かな温帯林(針広混交林)です。

アムールヒョウが暮らしていくためには十分な獲物が必要ですが、獲物であるイノシシ・シカなどの草食動物は木の実を貴重な餌資源として利用しています。

樹木には実を多くつける年とほとんど実らない年を繰り返す樹種があり、樹木の種類が乏しい森林の場合、不作の年には十分な木の実が供給されません。

しかし、森林に多種多様な樹木が育っていれば、常に実を供給する樹種が存在することになり、草食動物が餌不足に陥らずに済みます。

このように、植生の多様性を土台とし多くの生きものがすむ豊かな森林が、生態系の頂点に位置するアムールヒョウの生息を支えているのです。

「アムールヒョウ」の生息数

アムールヒョウの生息数は2000年代初めには約30頭とされていましたが、現在は回復傾向にあります。

2013年にロシア国内で実施された調査では、少なくとも43〜45頭の成獣と4〜5頭の幼獣が確認されました。

この結果は、2007年の調査結果が27〜34頭であったことと比べても1.5倍となっています。

また、この調査ではアムールヒョウの生息域が南北及び沿岸地方へと拡大していることも明らかとなりました。

アムールヒョウが国境を越えて中国と行き来していることは確認されており、また北朝鮮の森も利用している可能性はかなり高く、3か国での保護が重要であるといえます。

「アムールヒョウ」が絶滅危惧種となった理由

現在の生息地に加え中国東北部や朝鮮半島もかつてはアムールヒョウの生息地でしたが、2000年にはロシア・中国・北朝鮮の国境付近でわずか30頭にまで生息数が減少しました。

アムールヒョウが絶滅危惧種となった原因は、乱獲や森林破壊などにより生息地が失われ約40分の1に縮小したことがあげられます。

また、ロシアと中国の国境紛争で有刺鉄線がはられ、アムールヒョウや草食動物の行き来が絶えてアムールヒョウが餌不足になるなど国家間の情勢も無関係ではありません。

ここでは、アムールヒョウを絶滅へとおいやっている原因について解説していきます。

森林の劣化

約150年前の帝政ロシア時代、沿海地方に多くの人が移住し始めると、土地を開拓するために大規模な森林伐採が行なわれました。

中でもチョウセンゴヨウ(ベニマツ)は木材としての商品価値が高く、2010年に法的に伐採が禁じられるまで大量に伐採されてきました。

また、地域の住民が生活のために人為的に森林に火を放すことを繰り返した結果、土壌の乾燥が進み、乾燥や火に強い木ばかりが残ることになったのです。

その結果、多くの森林ではモンゴリナラという1種だけが目立ち下草が減少して、植生調査で確認できる種数が90%減少するなど多様性が失われました。

多様性の乏しい森では、クマやイノシシ、シカなど木の実に頼って生きる動物は餌不足に陥りやすくなり、獲物である草食動物の減少はアムールヒョウにとって致命的です。

アムールヒョウの生息地の森林面積が減っただけではなく、森林の質が劣化したこともアムールヒョウが減少した原因といえます。

密猟と違法伐採

ヒョウの美しい毛皮は人間の物欲の対象となり、アムールヒョウは密猟の犠牲となってきました。

また、生息地の森では法的に伐採が禁じられているチョウセンゴヨウ(ベニマツ)が未だに違法に伐採され高値で取引されています。

違法伐採のために森の奥地にまで延びた道路が、アムールヒョウを狙う密猟者のアクセスをも可能にしているのです。

生活の糧を得る手段が限られる中、違法行為に手を染めてしまう地域住民が後を絶たないことがアムールヒョウの生息を脅かす一因となっています。

トラとの競合

アムールヒョウの生息地では、シベリアトラの生息数も増加し獲物をめぐる競合がトラとヒョウの間で起きていることが判明しました。

本来トラとヒョウは生息環境の好みが異なり共存が可能とされていましたが、生息地域で草食動物の生息数が変化したことにより獲物が重なるようになっています。

ヒョウにとっては大き過ぎてトラの獲物となっていた大型のアカシカが減って、ヒョウとトラの両方が獲物にできる中型のアカシカが増えたことが原因です。

このような状況でトラとヒョウの争いが起こり、少なくとも3頭のヒョウがトラに殺されるケースが確認されています。

シベリアトラがアムールヒョウの生息数に影響を与えている可能性があり、十分な餌資源の確保のためにも生態系全体の保全が課題です。

「アムールヒョウ」の保護の取り組み

アムールヒョウは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでCR(Critically Endangered:近絶滅危惧)に掲載された希少種です。

近年、推定個体数は増加傾向ですが、これはアムールヒョウの保護のために政府機関・専門家・国際NGOが力を尽くしてきた成果といえます。

しかし、近い将来絶滅してしまう恐れが解消されたわけではありません。

ここでは、具体的な保護の取り組みについてご紹介していきます。

中国国内の保護区の指定

2017年、中国で初めて設置された国立公園の一つとして、吉林省と黒竜江省にまたがる「アムールトラ・ヒョウ国立公園」が誕生しました。

アムールトラ・アムールヒョウを保護する目的で設置されたこの公園は、約141万haの面積と97.7%の森林被覆率を誇り、アムールヒョウが安定して暮らす生息地となっています。

2015年にはアムールヒョウの生息地を通過する高速道路・高速鉄道の建設が計画されましたが、専門家からの提言により計画は中止・ルート変更がなされました。

さらに、2021年には自然林の商業伐採の全面禁止・鉱山の閉鎖が実現し、400haの森林再生と2千haの植林により野生動物の生息環境は急速に改善されています。

国立公園指定後、約3万台の赤外線カメラが設置され人工知能(AI)やビッグデータ分析も駆使しながら野生動物のモニタリングが始まりました。

モニタリングで得られた情報に基づき、約6800人の巡視員が公園で活動し、昼夜を問わずトラやヒョウの安全を守っています。

これらの施策の結果、4年間という短期間に草食動物の個体数が急速に増加し生態系が大いに改善されたことにより、アムールヒョウは7頭以上の子どもを含む約60頭に増えました。

国立公園の担当者は「2025年までに自然保護区と国有森林農場を統合し、アムールトラ・ヒョウの生態回廊を構築し、安定した繁殖を実現していく」としています。

ロシア国内の保護区の指定

アムールヒョウの主要な生息地である沿海地方南部のケドロバヤ・パジ自然保護区周辺の保護区一体の森林が、2012年に国立公園に指定されました。

それまで個別に分断されていた保護区が統合されて広さ約26万haの連続した保護区が「Land of the Leopard(ヒョウの森)国立公園」として確保できたことになります。

この国立公園はロシア国内生息域の70%をカバーしており、アムールヒョウが安心して暮らせる豊かな森林と十分な餌資源が保全されたことは非常に重要です。

国立公園の指定により生態系全体がさらに豊かになり、トラ・ヒグマ・ジャコウジカなどの大型哺乳類や希少種の数も回復しました。

結果的にウデヘ・ナナイという「北方先住少数民族」の伝統的な暮らしと狩猟文化を継続することも可能となり、エコツアーやボランティアによる植樹なども行われています。

将来的には中国・ロシアの国境を超え隣接する6つの保護区を統合した60万haの保護区を設置し、アムールヒョウ70〜100頭の生存を可能にすることが今後の課題です。

密猟・違法伐採の取り締まり

アムールヒョウは希少種保護の国際的な取り決めである「ワシントン条約」(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で付属書Iに掲載されています。

商業目的のための国際取引は全面的に禁止、学術目的の取引には輸出入国双方の政府が発行する許可証が必要です。

ロシアでは伐採が禁じられているチョウセンゴヨウ(ベニマツ)の違法伐採・取引きが続いており、森の奥地にまで延びた伐採用道路が密猟者のアクセスを可能にしています。

密猟や違法伐採に手を染めてしまう要因の1つは、地域住民の野生生物保護に対する関心や知識が浅いことです。

普及啓発のために2006年にはビジターセンターが開館し、地元の学校では環境に関するフェスティバルやコンテストなども開催されました。

また、WWF(世界自然保護基金)は、密猟や違法伐採を取り締まるグループである「レオパード」を支援し、アムールヒョウや草食動物の密猟の取り締まりを継続しています。

林産物の商品化

地域住民の理解と協力を得るためには、密猟や違法伐採に依存せずに生活できる手段を確立することが欠かせません。

WWFは企業パートナーと共に、間伐して得られたモンゴリナラ材による家具用製材や木炭・キノコや白樺樹液など、林産物の商品化や輸出により雇用を生み出そうとしています。

生態系や地域社会に配慮した経済サイクルが定着すれば、野生生物保護のための保護区管理や普及啓発活動に必要な資金も確保できるようになります。

地域住民の生活が経済的にも安定することが、野生生物保護への理解と協力には重要なのです。

再導入計画

2015年6月「アムールヒョウの再導入計画」がロシア連邦天然資源・環境省により承認されました。

現在世界各地の動物園において、種の保全のために250頭のアムールヒョウが飼育されています。

再導入計画は、飼育下のアムールヒョウの子どもの提供を受け野生で生存するためのトレーニングを行なった上で自然の森に再導入するというものです。

飼育下にある動物を野生に戻すにはさまざまな困難があると予想され、少なくとも今後12年をかけて実施されることになっています。

まず、飼育下のヒョウは狩りの能力や人間に対する恐怖心など野生で生きていくための術を身に付けなければなりません。

ラゾフスキーに建設予定の「再導入センター」が中核となり、特別なプログラムに沿ったトレーニングを受けた後、最終テストに合格した子どもだけが野生に帰されます。

再導入可能なエリアとして選ばれたのは、ロシア連邦政府が管轄する4つの自然保護区・国立公園・野生生物保護区があるラゾフスキー地区とオルギンスキー地区です。

今後アムールヒョウ再導入計画が順調に進むことが期待されています。

私たちにできること

アムールヒョウは日本の野生動物ではありませんが、実はアムールヒョウの危機は身近な問題といえます。

アムールヒョウの生息地は、新潟から飛行機でたった約 1 時間半という距離にあるロシア沿海地方であり、日本海を挟んで反対側の森林です。

また、アムールヒョウの生息地である極東ロシアから日本に輸入される木材には、違法に伐採されたものが約4割も含まれていると推測されています。

私達が無意識で利用する木材が、アムールヒョウが生息する森林環境に悪影響を及ぼしていないか、関心をもつことが大切です。

さらに国内の動物園10か所で17頭のアムールヒョウが飼育されており(令和3年末現在)、美しい姿を間近で実際に見て生態を知ることができます。

アムールヒョウを飼育している動物園は次のとおりですが、最新情報はそれぞれの公式サイトでご確認ください。

国内でアムールヒョウの保護活動をしている団体に寄付をしたり、活動に参加することも考えられます。

代表的な団体は次のとおりです。

アムールヒョウに関心をもち情報を得ることも、アムールヒョウを守るための一歩といえます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。